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「幸運草と魔女」


「ちょっと、そこの少年」
「はい?」
縁側でぼんやりしていると不意に声をかけられた。振り向くと祖母が廊下に立って居た。
「なに、婆ちゃん」
「あんたにこれあげるわ」
ふっと彼女は葉っぱのようなものを差し出してくる。
「四つ葉のクローバー」
「あんたが持ってなさい、お守りになるから」
そっと彼女は微笑んだ。
「ありがと、大事にする」
「きちんと形にできるかしら?」
「大丈夫」
僕は笑って、四つ葉のクローバーをそっと握り締める。
「俺のおまじないは婆ちゃん直伝だから」
ぱきん、と小気味のいい音が鳴って、手の中のクローバーは小さなブレスレットに変わる。
「上出来」
彼女は満足げに笑って、くしゃくしゃと僕の髪を撫でた。
「私は、いい弟子を持ったね」
「そうかな」
「そうとも」
彼女はゆっくりと頷く。
「もう行くの?」
僕が尋ねると、彼女はそっと笑った。
「また一年経ったら帰ってくるわ」
婆ちゃんの姿がぼんやりと消えていく。
「またね、婆ちゃん」
僕がそっと呟いて、手の中のブレスレットを握り締める。
と、家の中からどたどたと足音が聞こえ、さっきまで婆ちゃんが立っていた場所にばっと誰かが飛び出してくる。
「もしかして母さん来てた!?」
僕の母が精霊馬にするであろう、胡瓜と割り箸を持って叫ぶ。僕が頷くと母は不服そうに眉を寄せた。
「私に一言くらい挨拶していけってのあの魔女」
毎年僕の前にしか現れない婆ちゃんに不満なのか、母はぶつぶつと言った。
彼女は残ろうと思えば幽霊のままでこの世界に留まれると思う。彼女はそれくらいのことができる魔女だった。でもそれは、人間らしくないことだと婆ちゃんは分かっているんだと思う。
彼女は魔女だったけれど、人間として生き、死んだ人だった。
「それが、婆ちゃんらしいだろ」
僕がそう言うと、母は肩をすくめた。


09/12/25 もこ

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