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「景色」


「暑い」
じりじりと照り付ける太陽が憎くて目を細めた。僕は蒸れたシャツの中をパタパタと手で扇ぐ。彼女は片手に一眼レフを持ちながら、ぱたぱたと歩いて行く。
「なんでこのクソ暑い中、わざわざ制服で学校に来ないといけないんだ」
「だって制服じゃないと学校入れないし」
「わざわざ学校に来る必要ないだろ」
「この辺で一番高い建物、学校だしね?」
すたすたと前を歩いて行く彼女の短いスカート丈とシャツの上からでも透けて見える下着から目を逸らす。校内は夏休みにも関わらず、文化祭準備やら夏期講習やらで割と人が居た。
「屋上なんか開いてねえだろ」
「それが開くんだよ」彼女はポケットから鍵をちらつかせる。「文化祭準備がどうとかいってちょろめかして来た」
「おま、結構勇気あるな」
僕が呆れて肩をすくめると、彼女は誇らしげににひーっと口元を緩める。
「別に悪いことするわけじゃないから、いいじゃん。これもあるしさ」
彼女はそう言って手にした一眼レフを軽く振った。
階段を昇り、屋上に向う。上を向いて恥ずかしさにまた目を逸らした。壁に書かれた俗っぽい落書きが、いくつか目につく。
「じゃ、あけるよ」
「へいへい」
がちゃがちゃと鍵をいじり、彼女は錆び付いた扉を開ける。
光が、射す。
「うお、まぶし」
「溶ける」
目を細めながら、屋上に踏み出す。風が体を抜けていく爽快感。
「やっぱ屋上だと、結構風あるねえ」
ぱたぱたと彼女の髪が揺れる。さて、と彼女は空を見上げた。
「ほら、もう来てるよ」
僕もつられて顔を上げる。
「ああ、ホントだ」
「見れてよかった、こんな近くまで降りてきてるのは珍しいもの」
「普段は数百メートルは上だからな」
さて、と彼女は持っていた一眼レフを構えた。ぱしゃっとシャッターを切る音が鳴る。それを何度か繰り返し、彼女はファインダーから目を離した。
「いい絵は撮れた?」
「どうかなあ」
彼女は笑いながら空を見上げている。その景色は暑さを忘れるくらい清々しい。
「いいなあ、気持ちいいんだろうなあ」
クジラが空を横切っている。数十メートル先、大きな腹を見せて、クジラが飛んでいる。
彼女はクジラを見ていた。僕もその景色を見ていた。
彼女が居て、クジラが飛んで居て、風の吹く景色を。
うだるような暑さも忘れ、ただ見ていた。


09/12/28 もこ

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