「ループ」
「私死ねないの」
プリーツスカートに袖無しのセーター、長袖の白いシャツといういかにも女子高生な格好をした見知らぬ少女は言った。
顔立ちはさっぱりとしていて、少し鼻が高い。目も髪も随分黒く、深い色をしていた。じわじわと暑い太陽が照らしているにもかかわらず、汗をかいている様子がない。
「わかる?」
「あまり」
僕は即答する。体中が汗で蒸れて気持ちが悪い。
「何されても死ねないの」
にやりと口元を歪ませ彼女は言った。
「そういうのって、怖くない?」
「あまり」
僕は即答する。ネクタイを緩め、ため息を吐いた。
「試してみる?」
彼女はそう言って、何か黒く重々しい物を差し出してきた。現実感が無く僕はぼんやりとそれを見つめる。僕の視覚が狂っていなければ、それは銃だった。
「安全装置とかは外してあるけど。信じられないなら見てて」
彼女はそう言ってその銃を歩いてくる男子高校生に向ける。ぱん、と耳をつんざくような音が響いて、目を閉じる。先ほどまで生きていた男子高校生は頭を貫かれて死んでいる。アスファルトに大量の血が流れている。
「ほら。これで私を狙って」
僕は気付くと銃を受け取っていて、彼女を狙っている。
指が僕の意思と関係なく、引き金を引く。反動で体が後ろに吹き飛ぶ。情けない形で尻餅をつき、ぼんやりと前を向いた。
「ね?」
彼女の片目が消えていた。吹き出るように血が溢れているのに、彼女は笑っていた。はっとする。僕は彼女を知っている。
「私死ねないの」
*
「先生」
目を開けると夢で見た女子高生が目の前に居た。もの凄い嘔吐感を感じ、口を押さえる。ひどい悪夢だ。
「吐きそう? トイレあっち」
彼女が指差した方向に駆け込み、便器に吐く。それからしばらくぼんやりと吐いた後の便器の中を眺めながら、ぐわんぐわんと鳴る頭を落ち着かせる。
トイレから出て、部屋を見渡す。
「ああ、そうか」
そこはラブホテルだった。
「すごいうなされてたね、先生」
彼女はにやりと笑いながら、ベッドの上で靴下を履いている。短いスカートの中から昨日の夜に見たショーツが見えた。
「どんな夢を見てた?」
「君が銃を渡してきて、俺がそれを君に向けて撃つ夢」
僕は思い出しながらまたやってくる吐き気を押さえる。
あはは、と彼女は笑った。
「先生」
彼女はすっと僕の近くまで寄ってくる。
「それ、夢じゃないよ」
淡々とした声はあまりに現実味がない。
「先生は私を撃って、それからこのラブホテルに来て、たくさん私を犯して寝ちゃったの」
その間に傷は治っちゃったけど、と彼女は付け足す。意味が分からず僕は震える。
「ほら、またそれで私を撃って。私を殺して。まだ死ねないの。まだ死ねないの」
僕はいつの間にか夢で見た銃を持っている。気付くとそれを彼女に向け、そして夢と同じように引き金を引く。また反動で尻餅をつき、目を上げる。
彼女の片目が消えていた。吹き出るように血が溢れているのに、彼女は笑っていた。
「まだ、死ねないの」
*
「先生」
目を開けると夢で見た女子高生が目の前に居た。
09/12/24 もこ
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