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「ヨーグルト」


「ありゃ、どしたのそのマフラー」
「もらった」
僕はカバンをソファーに放り投げながら答える。
「誰によ」
姉はにやにやとしながら聞いてくる。僕はキッチンまで行き、冷蔵庫を空ける。中にあったヨーグルトを一つ手に取り、戸棚に入っているスプーンを探す。
「クラスメイト」
「はあん? 告白でもされた?」
どちらかというとしたかった、と心の中で呟く。ホームにたたずむ彼女が脳裏に焼き付いている。あんな絶好のチャンスでも優柔不断な自分はこの思いを伝えられなかった。自己嫌悪。
「なに変な顔してんの」
「まじにへこんでんの」
「ありゃ、あんたもそんな年ごろかあ」
姉は少し困ったように眉を寄せた。僕はぺらぺらの鞄を床に投げ、ソファーに座る。
「あんた奥手だもんねえ、面はいいくせに」
僕は黙って、ヨーグルトを食べる。甘い。
「でも、何もしないで後悔ばっかりするのはよくないからね」
「それはわかってる」
僕はぼんやりスプーンの上でゆれるヨーグルトを見つめる。
「一年片思いでようやく近づいたんだから、ちゃんと言う」
姉はそう、と頷いた。彼女は相手の気持ちを茶化さない。特に僕はささいなことでうじうじするような後向き人間なので、気を遣われているのだろう。
「そのマフラー大事にね」姉は優しく笑って、僕も気恥ずかしさに笑う。
「ところでさあ」姉がすっと僕を指差す。「それ私のなんですけど」
僕はしばらくぼんやりとその指先を見つめ、それから手元のヨーグルトを見る。
「あ」
「一口だから許す、返せ」
目がマジだった。
僕はさっとヨーグルトとスプーンを渡し、すみませんと謝る。彼女はありがとと笑ってヨーグルトを頬張る。
「まあ言えることはあれよね」
「うん?」
「恋はヨーグルトよか甘くないから」
「そういうくだらないことさえ言わなきゃ尊敬するのに」
僕は肩をすくめた。マフラーからほのかに彼女の香りがして、すぐ消える。ヨーグルトの部分は抜きにして姉の言うこともあながち間違いではないかもなと思う。
「恋は甘くない」
まさに。


09/12/22 もこ
 

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