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「幸福」


「神様はきっと優しくなんかない」
そう言ったのは、まだ純粋で真っすぐだった少女の自分だ。神様を憎んでいた、小さな自分だ。
だってこの世界は孤独に満ちているのだ。同じ人同士が互いを傷つけ合い、同じ孤独を分かち合えないまま、離れ離れになってしまうのだから。どんな幸せのあとにも、いつか別れがある。
だから、こんな世界を作った神様は、なんだかひどく意地悪な人のように思えた。
あの日からずいぶんと経った。
私はもうおばあさんで、たくさんの家族に囲まれていた。
今ここに、別れがあった。
私の魂はこの世界から少しずつ離れて、きっともうすぐ誰の目にも見えなくなるのだろう。それはいつかの自分が恐れた孤独だった。いつかの自分が憎んだ別れだった。
でも、もう神様を意地悪だなんて思わない。
たくさんのことを知った。たくさん泣いて、たくさん笑った。
彼と出会った。命を繋いだ。彼を失った。
たくさんの奇跡があった。
生きるということを知った。
この世界には孤独が満ちていた。みんな何かを満たすために生きていた。みんな何かを失わないように生きていた。溢れた悲しみや傷みがたくさんあった。
それでも確かに、感じられる温もりがあった。いつか失われる、けれど永遠に自分を支え続けてくれる優しさがあった。
この世界は、少女だった自分が思っていたほど悲しいことばかりではなかった。すくなくとも自分の見える範囲の世界は、たくさんの孤独に立ち向かい、生きようとしていた。その中で生まれたものがたくさんあった。
たくさんの孤独と共に、この世界には幸福が満ちていた。
そんな世界を作った神様のことを、私はもう憎んだりしない。
「神様はきっと優しくなんかない」
今でもその思いは変わらない。私は幸福だったけれど、この世界にはやっぱり孤独が満ちている。たくさんの悲しい思いや傷みがある。変わること無く、消えること無く、あり続ける。
それでも、私はこの世界が好きだった。
だからそれでいいと思う。それが多分、人間だから。
閉じていく意識の中で、もう一度この世界に生まれたいと思った。
またたくさんの人や、もの、景色達と出会いたいと思った。
それは多分、とても幸せなことだろう。
あの黒い虫を除いてはの話だけれど。


09/12/18 もこ

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