「ICAN」
薄暗いライブハウスの隅、僕はじっとスポットライトが当たったステージを見つめている。
見知った女の子がステージの真ん中でギターをぶら下げて立っている。周囲から口笛とバンドメンバーを呼ぶ声が聞こえる。僕はただ、じっと彼女を見ている。
彼女はステージから観客側をじっと見渡した。その表情には不安も緊張もない。その真っ直ぐな視線が僕と合う。
彼女がマイクを口に近付けた。
「ちゃんと、生きて、今ここに居るから」
彼女の言葉は、多分誰に送られたものでもなかった。
「これからも、歌おうと、思います」
自分自身に語りかけた、言葉だった。
歓声と拍手が起きる。彼女と僕が見つめ合う。
僕は呟く。
「大丈夫」
彼女が頷く。
そして、ゆっくりとギターを構えた。すっと息を吸う音が聞こえる。
「I Think I Can!」
歌声とは呼べないその叫びに含まれた意味が、僕には分かる。
君ならできる。
そう思う。
ギターと彼女の声がベースとドラムに合わせて走り始める。そのメロディーに観客が沸き立つ中で、僕はゆっくりと目を閉じた。
10/01/19 もこ
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