「きのこ」
「なんで頭にきのこ生えてんの」
彼女の頭に思いっきりなめこが生えていて私はぎょっとする。
「むしろ、あんたはなんで生えてないの」
はあ、とか思って周りを見回して見たら、近くの女子大生っぽい美人のお姉さん、馬鹿っぽいカップル、禿げの会社員、森ガールにもそれぞれ生えていた。
「順番にしいたけ、まつたけ、てんぐだけ、ふくろしとねだけ、うすきもりのかさ、うらべにほていしめじね」
「ええー……」
状況が飲み込めなくて私は眉間にしわを寄せるけど彼女は平然とした顔で言う。
「世界はそういうふうにできてるのよ」
「頭からきのこが生えるように?」
「それもあるんだけど」彼女は肩をすくめて言う。「結局この世を構成してる物質の中で人間に理解できてるのって数パーセントしかないのよ。他はもう未知数。理解不能。90パーセント以上がだよ。そんな世界なんだから何が起こってもおかしくなんかないわけ」
「へえ」
私はなんとなくだけど納得して、ふうんとか思ってコーヒーを飲む。そしたら頭が少しむずがゆくてなんだこれ、昨日ちゃんとシャンプーしたのにとか思ってたらにょきっと頭から生えてきてうわー私にも生えちゃった。
「おお、立派なしいたけ」
彼女が声をあげるので私はなんだか恥ずかしくてえへへと照れる。
とか思っていたらそれは夢で、頭の上をかいてみてもしいたけなんか生えてない。それが日常だ。
でもたまにはきのこが生えたっていいと思う。世界はそれくらい、未知数なんだ。
あくびをしながら寝間着から着替え、キッチンテーブルに着席。
「おはよお」
「おはよ」
お母さんはせかせか朝ご飯の準備だ。目の前には美味しそうな鮭とご飯が盛ってあってお母さんありがとうっていう感じ。
「お味噌汁、どうぞ」
と言ってお母さんはとん、とお味噌汁の器を私の前に置く。
「ありがとお」
そう言って器の中を見てみたら、なめこ汁で、なんか私はデジャブに笑ってしまう。
「いただきます」
そうして今日も私は美味しいきのこを頂くのであった。
10/01/17 もこ
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