「時は止まる」
「あのさあ」
「何?」
僕は彼の方を見ず、ぱこぱことパソコンのキーボードを打つ。
「俺って時間止められるんだよ」
「はぁ?」
「いや、まじで。時間停止」
彼は冗談を言うような感じもなく、いつもの淡々とした口調で言う。
「例えるならまさにジョジョなわけ。スタンド。ザ・ワールド。DIO様だよ。承太郎でもいいけどさあ、スタープラチナよりはザ・ワールドのが時間停止の本家っぽいよな」
「太陽光で溶けて死ね!」
僕は課題に追われているので、かりかりとした態度で適当に返事をする。
「大体そんな能力なんかあったら、お前もうちょっとまともな人生歩んでるだろうが」
時間を止められる、なんてそんなことができたら、相当人生にも余裕ができる気がする。が、彼は何かと不器用で、テストなどの点数もひどければレポートの出来もひどい。できることなら僕も時を止めて、じっくり時間をかけてレポートをしたいものである。
「いや、それがさあ、聞いてよ」彼は僕の態度など気にする様子も無く言う。「時間は止められても、動けないんだよ」
「はあ?」それって何の意味もなくないか。「なにそれ、どういうこと」
「時間は止まるんだよ。時計の秒針は止まるし、人は誰も動かなくなる。でも、俺は動けない。目も動かせない。結局俺まで停止してて、それをぼんやり感じてるだけなんだよ」
「馬鹿みてえ。それって止められないのと何も変わらないだろ」
「ほんとにな」
彼はのんきに笑って言う。
「でも、そういうもんなんだよ。調べてみるとさ、時間停止ってことは、物理法則の停止なんだとさ。そうするともう周囲が凍り付いてるのと同じなんだ、まったく動けなくなるんだよ」
彼はそう言って、それから眉を寄せる。
「でも、思考だけそこから取り残されてる。思考だって脳の電気信号の行き交いのはずなのに、な」
「ふうん」
僕はいまいち話が飲み込めず曖昧に返事をする。
「俺はさあ、多分それは思考が魂に依るものだからだと思うわけ。つまり魂っていう物理法則とは別次元にある人間の本質が、思考に大きく影響してるんだってさ」
もうこうなってくると話はちんぷんかんぷんで、こういう話をする割に彼が単位を落としまくっているのが不思議でならない。
むしろこういうことばかり考えている所為で、逆に授業に身が入らない、とか?
「あのさあ」僕は彼の言葉を遮るように言う。「俺、課題中」
「ああ」
申し訳ない、と彼は適当に謝り、それからベッドに寝そべる。
「つうか、お前の課題は?」
僕が突っ込むと、彼はへへえと不気味に笑った。
「こういうときこそ、スタンド欲しいよな。別にザ・ワールドじゃなくてもさ」
「時間止めてじっくり考えろよ」
僕は肩をすくめて、ぼんやりディスプレイを眺めた。
残りの文字数を考えながら、課題に使えそうなスタンドがないか、思わず思考を脱線させた。
10/01/21 もこ
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