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「金魚」


透明の壁に囲まれている。
「ここは、そういう世界なんだよ」
ぼんやりとしていると古株らしい彼はそう教えてくれた。随分恰幅がよく、喋りものっぺりとしている。
「はあ」
僕はくるりと周りを見回してみる。
「他には、誰も?」
「今はね」
彼は昔を懐かしむように言った。
「私も時期がくれば、ね」
「そうですか」
僕は何を言えばいいか分からず、黙る。こぽこぽと音が鳴る。
透明の壁の向こうは歪んで上手く見えない。
「でも、きっとそれでもここなら長く生きていけるよ。私も君くらいの頃に連れて来られた。そういう所なんだ、ここは」
「それは、でも、幸せじゃないですよね」
彼はすっと僕から目を背け、ため息を吐く。
「彼らには、どうでもいいことなんだよ、私達の幸福なんて」
別の生き物なんだから、と彼は自嘲気味に笑んだ。
僕は改めて透明の壁を向こう側を見つめる。そこに居るのは肌色の巨大な生き物だった。
「そんな、ひどいことが」
あっていいんですか、とは言えない。
「ここは、そういう世界なんだよ」
赤く丸い体が、すっと水の底を目指して泳いで行った。


10/01/20  もこ

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