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「飛行機雲と秋の空」


「飛行機雲発見」
ばたばたと髪をなびかせながら、彼女は僕の前を走っていく。
「おい、上見ながら走んなよ」
「えー? 聞こえなーい」
風が強く声が届いていないのか、彼女は振り返って耳を澄ませる。
「転けるなよ!」
僕が叫ぶと彼女は、にっと笑ってまた空を見上げながら走る。危なっかしくて見ていられない。
秋の空は馬鹿みたいに青くて、それを一直線に、まるで空を割るように飛行機雲は走っている。
「ほんと、馬鹿みたいに綺麗だな」
視線を戻す。さっきまで慌ただしくはしゃいで居た彼女はぼんやりと立って、空に向かって手を挙げている。
「なにしてんの」
「へへ」
彼女は笑って、
「空高いねえ」
僕は頷いた。
「うん」
「このまま飛べちゃいそう」
「何言ってんだか」
僕が肩をすくめると、彼女は目を瞑り、そしてゆっくりと倒れていく。
「あ」
と声を上げたとき、彼女の体が強い風に乗るように、ふわりと、浮いた。何も無い空間にもたれかかるように、彼女の体が空中に浮き上がっている。
彼女は目を瞑ったまま、しばらく風にゆらゆらと揺れていた。
僕は声を出せないまま、その姿を見ていた。
強い風が吹いて、彼女の足が地面に着く。瞬間彼女の目がぱっと開き、そしていつも通りのあっけらかんとした顔で、ふうと息を吐いた。
「何変な顔してんの?」
彼女は何事もなかったかのように僕の顔を見つめる。自分が空を飛んだことに気付いていないらしい。もしくは、彼女はいつでも空を飛べるのかもしれないけれど。
僕は首を振って、
「何でも無い」
肩をすくめた。
空は相変わらず青くて、飛行機雲はいつの間にか消えていた。


10/01/08  もこ
 

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