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「その手」



「もう、雪でも降りそう」
駅の改札を出て、耳障りな音を鳴らす踏切の前で彼女は言った。絶対に自分からは離すまいとするように、彼女は繋いだ手を握りしめる。
「そうだねえ」
頷いて彼女のその小さな手を握り返した。頭一個分身長の低い彼女はこっちを見上げ、それから照れたようにふいとそっぽを向いた。同い年のくせに、子供みたいなそういう仕草が可愛らしい。
電車が通り過ぎて、踏切が上がった。
「今日は、うちに泊まる?」
歩き出しながら尋ねると、彼女は小さくこくりと頷く。
「じゃあご飯どうしようかな。多分冷蔵庫の中からっぽだから、何か買わないと」
頭の中に描いた冷蔵庫の中身は、味噌とキムチとマーガリンぐらいだった気がする。流石にそれでは客に出すようなご飯は作れないだろう。
「白菜食べたい」
「お鍋でもする?」
「鶏がいい」
「じゃあそうしよう」駅と家の間には割と安いスーパーがあるので、そこで材料を買い込もう。「夜も冷え込みそうだし、丁度いいよね」
また小さく頷く彼女の頬は冷たい空気の所為かほんのりと赤い。
「寒い?」
「ちょっと」
「マフラー貸すから、ちょっと待って」
片手でのそのそと巻いていたマフラーをほどいて、そのまま彼女の首にかけた。
「お母さんみたい」
彼女も片手で器用にマフラーを巻きながら、じっとこっちを眺めながら言う。
「うん?」
「優しいね、って言ったの」
そっぽを向きながら、ぎゅっと彼女は冷たい手を握りしめた。
「早く、スーパー行こ」
まるでおもちゃを買ってもらう子供みたいに、彼女は早足で手を引っ張る。
「私ヒールなんだから、もう少しゆっくり歩いてよ」
私はそう言って、すこしよろめきながらも、その手を離さないようにしっかりと握りしめた。

寂しがりな私達は寄り添ったり、引っ張ったり、時々喧嘩したりしながらも、その手を離さない。友情とは違うそれを、誇れるかどうかも分からない。あるいは、他人が聞けば軽蔑するような関係なのかもしれない。
だって私は彼女を、愛しているのだ。恋しくて、愛しくて、私はその小さな体を抱きしめる。それは世間からすれば、決して正しい、健全な在り方ではない。それこそ、自分が男ならばどんなに楽だったろう。
けれど誰にも認めてもらえなくたって、結局この想いはどうしようもないのだ。想いを伝えられず自暴自棄になるくらいなら、除け者にされたって私は彼女のそばに居たい。そうしている限り、彼女は私から離れたりはしないのだから。
それは私のわがままだろうか。彼女にとっての幸せはそこにあるのだろうか。まだ私には分からない。
たとえお互いに愛し合っていたとしても、私達は他人だ。それぞれにそれぞれのわがままがあり、幸せの感じ方がある。
たとえ私が彼女と居ることに一番の幸せを感じていたとしても、それは結局私自身の話でしかない。本当に愛しているのなら、時にはその手を離すことも、必要なのかもしれない。
だからせめて、と思う。
今だけは、その手を離さないように。
今だけは、幸せだと思ってくれるように。
こんな私を引っ張ってくれる、彼女が何よりも暖かい気持ちで居れるように。
小さくて冷たいその手を、私はしっかりと握り返すのだ。


10/01/12 もこ

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