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「全て」



「俺らって、別れると思う?」
彼が不意に聞いてくるので、私はぽかんとした顔をしてしまう。
「何その顔、可愛いな」
ふるふると首を振って、睨む。ごめんと彼は謝ってそっと私を撫でた。
「やっぱ先のことはわかんねえし。別れるかもだろ?」
それはそうだと私は思うけれど、やっぱりそういうのを考えるのは悲しいので不服な顔をする。
「まあ、やっぱ別れたくないよな。一緒に居たいって思ってるし」
こくこくと頷くと、嬉しそうに彼は笑った。
「そういうのは、やっぱそん時になって考えればいいよな」
私もつられて笑った。窓の外はもう随分暖かくなって、桜色がちらほら見える。
「お花見でもしようか」
私は頷いて、立ち上がった彼の横に立った。
言葉はなくても彼はいろいろなことを分かっている。夏は海に連れて行ってくれて、秋は焼き芋を買ってくれて、冬はサンタクロースの格好をしてくれる。春が来て、桜を一緒に見に行ってくれる。
一度だって話せなくても、彼は私を愛してくれている。私を部屋から連れ出してくれる。私の名を呼んでくれる。
他の誰もくれなかった全てを、彼がくれる。
だからせめて、
「行こう」
答える代わりに私は寄り添う。その手を握る。
握り返してくるその手を、私は離さない。
別れる日が来ても、今この時を忘れないように。


09/12/30 もこ
 

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