「人」
「それさあ」
「うん?」
彼は本から目を離して、すっと僕の手の中を指差した。僕が首を捻ると彼は興味ありげに笑う。
「何の人形?」
僕は手に持っていた人形を机に置いた。マネキンに近い、別段特徴のない人形に見える。
「別になんでもないよ」
「ふうん?」
「できれば触らせたくないんだけど」
彼は不服そうに僕を睨んだ。
「なんでだ」
「壊しそう」
僕が素直に言うと、彼はぱたんと本を閉じて立ち上がる。
「そういうふうに邪険にされると、逆に気になるよなあ」
「なんでさ」
「いいじゃねえか、壊さねえから。ちょっと見せろって」
楽しげな顔で彼はふらふら机に近付く。
「気をつけろよ」
と、僕が言うか言うまいかというところで、床に置いてあったビニール袋を彼が踏みつけた。
「あ」
「あ」
二人同時に声を上げる。馬鹿みたいな格好で彼が転ぶ。かしゃん、と情けない音がして、彼の手刀が人形の首を折る。
どすん、と音がして彼の頭が畳に転がった。
「言わんこっちゃない」
返事がない。ただの屍のようだ。
09/12/31 もこ
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