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「宇宙」


「それさあ」
「うん?」
彼は本から目を離して、すっと僕の手の中を指差した。僕が首を捻ると彼は興味ありげに笑う。
「なんか入ってるな」
僕は手に持っていた水槽を机に置いた。あまり大きくないそれの中には水以外には入っていないように見える。
「別になにも入ってないよ」
「ふうん?」
「できれば触らせたくないんだけど」
彼は不服そうに僕を睨んだ。
「なんでだ」
「こぼしそう」
僕が素直に言うと、彼はぱたんと本を閉じて立ち上がる。
「そういうふうに邪険にされると、逆に気になるよなあ」
「なんでさ」
「いいじゃねえか、こぼさねえから。ちょっと見せろって」
楽しげな顔で彼はふらふら机に近付く。
「気をつけろよ」
と、僕が言うか言うまいかというところで、床に置いてあった雑誌を彼が踏みつけた。
「あ」
「あ」
二人同時に声を上げる。馬鹿みたいな格好で彼が転ぶ。かしゃん、と情けない音がして、彼の手が水槽をひっくり返す。
世界が真っ暗になった。
「言わんこっちゃない」
返事はなかった。


09/12/30 もこ
 

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