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「朝焼け」

久々に出た外は空気が冷たくて鼻の先と耳が痛かった。
息はすぐ白くなって、消えてしまう。ストールを巻き直し、口元まで隠した。ふと空を見上げる。夜明け前の色素の薄い世界が広がっている。ぼんやりと白い月が見えて時間の感覚が分からなくなる。遠くで鳥のさえずりと、原付のエンジンをふかす音が耳に届く。朝練に向かう学生服とか、出勤途中の寝むそうなサラリーマンとかを詰め込んでローカル線の電車が走っていく。
そして、道の先を見て、息を止めた。
「おかえり」
微笑んでいる彼が立っている。
優しい声が聞こえる。私が三年間、求め続けた声が聞こえる。空の雲が太陽で黄金色に焼ける。
なんて美しいのだろう。なんて鮮やかなのだろう。自分が目を開くだけでこんなに世界は眩しかった。生きているという安心感を感じられる。その幸福感。
くすんだ壁を見つめ続けた三年間、この世界は、そして彼は自分を待ち続けてくれていたんだ。
ぼんやりとした意識は少しずつ実感に変わる。
不意にぼろぼろと、涙がこぼれた。
たくさんのことがあったし、これからもたくさんのことが起こる。会いたい人も会いたくない人も居る。伝えなきゃいけないことも、誰にも言わないこともある。
それは不安で、怖いことかもしれないけれど。
きっと大丈夫。
彼やこの世界が、私を待っていてくれるから。
私は時間をかけて、ちゃんと生きていける。
一歩、ぎゅっとアスファルトを踏みしめた。
黄金色の雲が眩しくて、また泣いた。



09/12/16 もこ

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