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十二時超えて書き上げたので前回今回は日付が一日遅れ
がっでむ
もうすぐ一週間ですよ



「枝豆と梅酒ロックとシンパシー」


「おいしい?」
枝豆ばっかり食っていたら声をかけられた。
「好きなんだよ、枝豆」
「ふうん? お酒より?」
「うん。でもなんで?」
「最初の一杯以降、飲んでないから」
彼女が笑いながら僕の半分飲みかけの梅酒ロックを指す。氷がかなり溶けて随分薄まっている。
「あんまり酔うの気持ちいいと思わないから。枝豆美味しいし」
「枝豆が美味しいのはすごくわかるけど。変なの」
「そうかな」
「大学で急にお酒飲み始めて、はっちゃける子多いじゃない」
「そういうの、格好わるいと思わない?」
僕は少し笑いながら彼女に呟く。こういうことを他の子に聞かせて、気分を害されるのはよくない。
彼女はそうかもと笑って、
「だからこういう場ではあんまり飲まないわけだ。いいね、そういうの。気持ち分かるな」
「俺が食べる方が好きっていうのも大きいんだけど」
僕は言いながらまた一つ枝豆を口に入れる。ちょうど良い塩味が口にほんのりと広がる。
「ふうん? 自炊とかしてるの?」
「一応。でも一人だとあんまり作らないかなあ。誰か居れば作ってあげようってなるんだけど。自分の分だけって、分量的にも気持ち的にも難しいんだよ」
ふうんと彼女は頷いて、チューハイを傾ける。少し沈黙が合って、周りのざわつきが耳についた。
「じゃあこれ終わったら、私にお酌ついでにおつまみ作ってよ」
「はい?」
「個人的に飲むのならいいんでしょ?」
「いやまあ、そうだけれど」
女性のそういった誘いは基本的に初めてで少し対応に困る。
「あ、もしかして彼女とか居る?」
「居ない」僕は即答する。「あんまりそういう経験がないから」
「うそ。なんか意外。割と経験豊富に見えるけど」
それは一体どういう意味だろうか、僕は判断に迷って半端に苦笑する。
「でもまあ、君がいいならお酌ぐらいはするよ」
「本当? ありがと」
彼女は満足げに頷き、それからずいっと俺の目の前まで近付く。不適な笑みだ。
「ついでに寝床も用意してくれたらいいよね」
「はい?」
「冗談」
すっと彼女は遠ざかって、ふらっと他の席に歩いていく。
「またあとでね」
僕はふむ、と少しだけ間を置いてから梅酒ロックの入ったグラスを傾けた。温い梅酒が喉をじんわり熱くさせる。
すっと枝豆の皿に手を伸ばした。こつん、と指がからぶる。よく見ると枝豆の皿は既に空っぽで、ひょろひょろと手を引っ込める。なんだか落ち着いていない自分が恥ずかしくて、グラスで顔を半分隠す。
グラス越しに見える彼女は、友人達とけたけた笑っていて、自分と話をしているときとは何だか表情が違うことに気付く。どこか作ったような笑みは、僕自身を見ているような違和感とシンパシーを覚える。きっとそれは、そういうことなのだ。
「さて」
彼女の言葉がどういう意図であれ、僕にできるのは簡単な料理を作ってお酌をすることだけだ。
とりあえず今はこの退屈な飲み会を過ごすのに満足できるつまみを探しながら、彼女を気楽にさせてあげられるメニューを考えようと思う。
何かが起こりそうな予感はどうあれ、それが今の自分にできることだろう。
ざわついた気持ちは後で考えればいいのだから。


09/12/15 もこ
 

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