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「自己嫌悪」


「いいよ、もう」
なんて投げやりな、いい加減な言葉だろうと、思った。僕は苛立つ気持ちを抑えて、拳を握り締める。
「私が悪いのなんて、分かってるんだから、そんな責めないでよ」
そうじゃない。責めてるんじゃない。伝えたいだけだ。ちゃんと伝えてほしいだけだ。ただ分かり合いたいだけなんだ。
けれど僕がどれだけ思っても、それが言葉にならない限り彼女には伝わらない。彼女はすっと立ち上がった。
「帰る」
僕の返事も待たず、彼女はばたばたと鞄を引っ提げて部屋を出ていく。ばたん、と強く扉を閉める音が響いた。
僕は何も言えないまま、部屋の中に取り残される。
肩をすくめ、それからキッチンに立ち、冷蔵庫を開ける。ポカリスエットを一口飲み、溜息を吐く。
「なんだかな」
呟いた声は、空しく自分の中に溶けていく。
付き合って半年、彼女は僕から逃げることが多くなった。僕は適当に、曖昧に流してしまうことが増えた。お互いに言葉を交わせず、けれど離れる勇気もなく。付き合い始めたころは、自分がこんな風になるなんて思いもしなかった。僕はもっと自分が人と向き合えると思っていたし、ずっと彼女を好きで居れると思っていた。
ふらふらとベッドに倒れ、まだ布団に残っている彼女の微かな匂いを感じる。
今はもうこの匂いも、彼女の表情やしぐさも、何故だか鬱陶しく感じてしまう。煩わしいと思ってしまう。それくらい僕は彼女と一緒に居ることに疲れてしまったみたいだ。
「気持ち、悪いな」
誰が? 誰よりも僕自身が、一番気持ち悪い。
何も自分から言えないくせに、疲れただの鬱陶しいだの言う権利は僕にはないのだ。
あまりの自分勝手さに自己嫌悪に陥りながら、目を閉じた。
いつか付き合い始めたころの、幸せを思い出す。何でもないことで笑いあい、抱きしめ合う。そんな馬鹿みたいな関係がたった数か月前までここにあったのに。
鼻の奥が少し、つんと痛む。
「まだ、好きみたいだ」
煩わしいなどと拒みながら、心のどこかで自分が彼女を求めていることに気付く。
その事実が酷く痛くて、僕は一人ベッドの上で丸くなった。


10/01/13 もこ

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