「おやつの時間」
「なんていうかー、なにげにー」
何の脈絡もなく彼女は口を開いた。
「なに、いきなり」
僕は咥えていたメープルチュロッキーを口から離す。彼女は無言で僕の手に残ったそれを口に放り込みながら、うーんと呻る。
「語尾延ばすとすごい馬鹿っぽくなるっすよね」
「いや、それが何」
「そういう女の子、好きかなって」
彼女はいつもの気だるげな様子で、口元だけで笑みを作る。
「馬鹿っぽい女の子ってかわいいじゃないっすか」
「そうかな」
僕はあんまり好きじゃないかも、と呟きながらメロンパンを頬張る。彼女はふうん、と興味がないようにも見える態度で頷く。
「じゃあ先輩はどんなのが好きなんすか。女の子」
「どんなのと言われてもなあ」
「先輩の好みに合わせますよ、私のキャラを」
「なんでさ」
僕は苦笑しつつ、メロンパンを食べ切った。
「あ、妹キャラとかどう? きゃぴきゃぴしちゃうぞお兄ちゃん」
無表情でその台詞を言える彼女が恐ろしい。心なしか目がきらきら光っているような気がしないでもないのだけれど。
しばらく空気が凍るような沈黙があった。僕は唖然と彼女を見つめる。
「あー今のはやばかったかも?」
「かなり」
ですよねー、と肩をすくめながら彼女はまた口元だけで笑った。
「でもほんと、先輩、なんかやりますよ私」
「どういうサービス心なんだ」
袋を破り、中のクリームパンを二つに割る。片方をほい、と彼女に渡す。
「んー、そういう気まぐれも、いいかなって」
「ま、気持だけ受け取るってことで」
「つまんないっすねえ」
別段つまらなそうでもなく、彼女はもぐもぐとクリームパンを食べる。
「別にそのままがいいよ」
「はい?」
「キャラとか、別にいいって」
僕が言うと、彼女は眼を丸くする。
「そのままが、俺は好きだし」
僕は笑ってチョコデニッシュの袋を破る。
「あー、なんていうかー」
彼女は珍しくいつもの気だるげな表情を崩して、照れるようにはにかんだ。
「なにげにー、すごいー、恥ずかしいー、みたいなー」
10/02/14 もこ
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