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「失恋」


「別れようと思う」
不意に彼がそう言ったので何のことかわからずぽかんと口を開ける。
「え、なんて?」
「別れよう」
彼のきっぱりと言い切る言葉が頭の中で反芻する。
「そんな、なんで」
「なんでもなにも、ないだろ」
彼はタバコを一本咥え火を点ける。宙に舞う煙はゆっくりと空気に溶けていく。
「でも、そんな、いきなり」
「もう無理だなって。わかるだろ、世間体とか」
彼はじっとこちらを見つめてくる。自分の顔が引きつっているのが分かる。
何も言えず、しばらく沈黙が流れた。
「悪い」そう言って彼はさっと立ち上がった。「そういうことだから、もう会えない」
彼は携帯灰皿にタバコを突っ込み、そしてゆっくりと歩いていく。
待って、と口に出そうになるのを堪え、俯いた。自分には何も言う権利はない。彼の言葉は正しい。付き合って三ヶ月、何となくではあるけれど、もうこの関係を維持できないという直感があった。そして自分はそれを必死に留めようとしていた。
彼がそれを疎ましく思っているのも理解していながら。
だから自分には彼を留める権利はない。好きというだけで永遠に恋人で居られるわけはないのだ。
泣きそうになるのを堪え、息を吐く。
「また、ふられちゃったな」
声に出して言うとまだ気分が晴れた。髪をぼさぼさとかき、はあと溜息を吐いた。
「男好きになるのは、つらいなあ」
何がつらいと聞かれれば、そりゃあ色々なのだけれど。
「俺も男だもんな、しょうがないよな」
ふられるたびにそう思いながら、自分が好きになるのは同性で。
結局自分はそういう風にしか恋ができないのだし、きっと仕方ないのだろう。今は辛い気持ちを噛み締めて、思い出に浸ればいい。
僕はゆっくりと彼とお揃いの柄のタバコを咥え、火を点けた。
宙に舞う煙は、風に流されて遠くへと消えていった。



10/03/03  もこ
 

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