「べん」
弦に触れる。べん、という軽い音が鳴る。
「あの」
「うん?」
私はギターのネックに触れながら、声をかけてきた後輩に向き直る。
「先輩、いつもそのギター持ってますよね」
彼女は興味深げに私のギターを指す。フェンダーサイクロン。
「うん、まあ、相棒っていうか。思い入れある子だから」
「へえ、どんな?」
彼女が尋ねるので私は肩をすくめながら、
「端的に言えば、元カレ」
と、苦笑した。
「えーなんですかそれー」
「んー元カレがーpillows好きで、私もハマって。彼がボーカルの山中さわおと同じモデル、つまりコレを持ってて、お下がりで貰ったの」
女々しい理由でしょ、と私は笑う。
それでも私は彼から貰ったこのギターを一生大切にするつもりだし、pillowsも聞き続けるだろう。
「今も、好きなんですね」
彼女は微笑み、まあね、と私は頷く。
「ま、色々あるからね」
彼と私の間には、多分簡単には人に話せない諸々がある。それは私を慕ってくれるこの後輩にも言えない、私と彼だけのこと。
誰しもあるそういった想いを、多分彼女は理解してくれているのだろう。それ以上は何も聞かず、彼女は笑った。
「そのギター、先輩に似合ってますよ」
「ありがと」
私も微笑みを返し、それからまた、弦に触れる。
いつか彼がこのギターに触れた時と同じ、べん、と軽い音が鳴る。
10/02/11 もこ
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