「ジンクス」
「黒猫って不吉って言うじゃん」
「うん?」
僕はDSの画面から目を離し、振り向きながらずれた眼鏡を掛け直す。
「黒猫は、可愛いけど」
「可愛いかどうかじゃなくてー。一般的なジンクスだよ」
「まあ、そうだね」
イギリスでは幸運の象徴だし、日本でも魔除けとされていたというのは口に出さず、僕は頷く。
「それって人間が勝手に決めた迷信だけどさ。逆はあるのかな」
「逆って?」
「んー、例えば、猫からしたらこういう人間を見たら、縁起が悪い、とかさ」
「はあ」
僕は曖昧に頷く。猫達のジンクス?
「具体的に」
尋ねると、彼女はうーんと首を捻り、それからすっと僕を見つめた。
「眼鏡を掛けた人間を見るのは不吉、とか」
「俺じゃん」
「例えばだよ。でも、あり得なくはない」
「あったら困る」
猫は好きだし、将来飼いたいと思っているのに。
「でも、猫に好かれないじゃん」
「まあ、そうだけど」
「猫に触ろうとしたら、大体怪我するしね、君」
「それこそ、ジンクスだ」
僕が肩をすくめ言うと、彼女はだからそれは、と口を開いた。
「やっぱり、眼鏡の人間は不吉だからなんじゃない?」
「はいはい」
僕はずれた眼鏡を掛け直しながら、DSに向き直り手にもっていたDSの画面をタッチする。
画面の中の猫が、嫌がるようににゃあと声を荒げた。
10/02/13 もこ