忍者ブログ
リンク
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

mixiで「できる限り毎日SS書く」っていうのを始めたので
こっちも連動させようと思います


「マフラー」

「いいな、マフラー」
帰りの電車を待つプラットホームで突然話し掛けられた。振り向くと見覚えのあるクラスメイトがぼんやりとした目でこっちを見ていた。
彼は着古してぼろぼろのカーディガンの袖を口元にあてて、白い息で手を温めている。
「帰りだよな?」
「あ、うん」
「電車一緒なんだな、知らなかった」
彼はなんだか何を考えているかわからない顔で私を見てくる。その整った顔と染色で少し痛んだ髪が、妙に綺麗で驚く。毎日同じ教室で見ていたのに、今まで彼がこんなに綺麗で今にも消えそうな空気をまとっているなんて気付かなかった。しばらく黙っていたかと思うと、
「いいな、マフラー」
再び彼が呟くように言うので私はくすりと笑う。
「そんなにいい?」
「灰色が可愛い」
ぽつぽつと喋る姿は普段教室ではきはき物を言う彼と正反対で、意外だ。でもなんとなく今ぼんやりしている彼の方が素なんだろうと私は思う。
「それでも欲しいならあげるよ、これ」
「え、まじ、なんで」
私はぐるぐるに巻いてあったマフラーをほどきながらうん、と頷く。彼は驚いたように目を丸くするんだけれど、声に抑揚がないからひどく間抜けに聞こえて可愛い。
そのマフラーは市販のものじゃなく、自分が暇な間編んでいて今日完成したばかりのものだった。正直自分では気に入らないというか、似合わない気がしていたので気に入ってくれた人にならあげてもいいと思ったのだ。
編み物が趣味の私は自分で使いもしないマフラーや帽子や手袋をあげる相手も居ないくせに編んでしまう。使わなくなって箪笥の奥に仕舞われるより、誰かが使ってくれた方が嬉しい。
「その格好寒そうだし、私はもう一本あるから。あ、でも迷惑かな。自分で編んでたやつだから、正直あんまりいい出来じゃないし」
「いや、全然迷惑じゃない、寒い」
よかったと私は巻いていたマフラーを彼に渡し、鞄からもう一本を取り出す。
「悪い、助かる」
彼は私が今までしていたマフラーを巻き、口元にあった手をカーディガンのポケットに突っ込む。
「なんか、本当にもらっていいのか」
「いいよ。家に帰ったら山ほどあるし、誰にあげようと思って編んでたわけでもないから」
ふうんと彼は頷いて、それから不意に柔らかく微笑む。
「ありがとう、大事にする」
その微笑みが綺麗過ぎて、私は頬が紅潮していくのが分かる。それを隠すように鞄から出したマフラーを巻き、ゆっくりと息を吐く。
白くなった息はそっと消えて、私はぼんやりと彼を見る。
電車が近付いて、ホームにアナウンスが流れる。来たなと呟く彼の隣に立ちながら、私は初めて誰かの為に手袋を編んであげたいと思った。
今、その思いを伝えるかどうかはまた、別にして。


09/12/09 もこ

拍手

PR
SS 三日分 HOME なんかもう そのまんま