「girl in」
僕はシャッターを切る。
ファインダー越しの世界はいつもより狭くて、けれどどこか眩しい。
だから冬の朝、朝日が昇る時間、空を撮るとき、僕はいつもしかめ面をしてしまう。
今、この瞬間、まさに。
「きれいなもの見る時に、そんな不細工な顔しないでくださいよ」
隣で呆れたように彼女は笑いながら、マフラーに顔を埋める。
「毎日撮ってても、これだけは慣れない」
「まあ、ファインダー越しだし、余計となのかもですけど」
僕は一眼レフのディスプレイを覗き、それからもう一度朝焼けにレンズを向ける。その光を上手く捉えるのに、毎日同じ設定をしていては駄目なのだ。日々変化する太陽が昇る位置や、天気、空気の感じによって、シャッタースピードも絞りもISOも合わせなければ、そのときの眩しさ、綺麗さは写らない。
「結局、慣れるもなにもないのかもしれない。世界は常に変わっているから」
「ロマンチスト」
彼女の冗談じみた声を無視して、ファインダーを覗き続ける。
「先輩のそういうところ、可愛いですよね」
「む」
褒められているのか、けなされているのか、いまいち分からずファインダーから目を離し、彼女を見る。
彼女は微笑みながら、少し目を細めて太陽を見ていた。
「いいと思いますよ、ロマンチストで。しかめっ面のロマンチストって、ギャップありますけどね」
彼女はそう言って、ふっと僕を見る。
「私はそういう先輩が、結構好きですよ」
「う」
僕は言葉に詰まり、表情が緩むのを隠すようにカメラのファインダーを覗いた。
空にレンズを向け、ピントを合わせる。それから少しだけ考えて、すっとレンズの向きを変えた。
ファインダーに写るのは、僕を見て微笑む彼女の姿。
「そういう照れ隠しも、可愛いです」
すっと風が吹いて、紅潮した頬を冷ますように僕の横を通り過ぎていく。
ファインダーの中の彼女の髪が揺れる。
僕はシャッターを切る。
10/01/30 もこ
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