忍者ブログ
リンク
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


「ビター」



「人と話してて、さ。違和感ない?」
彼女がそう言って、僕はぱたんと文庫本(舞城王太郎のみんな元気。)を閉じる。彼女は板チョコを割りながら、ホットミルクを飲んでいる。
「違和感って?」
「お互いの言葉が噛み合ってないっていうか。同じ言葉で話してるんだけど、意味が上手く伝わってないっていうか」
「まあ、あるかな」
「それってさ、やっぱ面倒な訳。イライラするっていうか。もどかしい感じがするじゃない」
「まあ、そうだね」
僕のように毎日引きこもって文庫本を読み漁る日々と違って、彼女は大学、バイト、サークル等々で色々な人間関係に揉まれている。そういう気苦労が溜まるのは致し方ない。
「ジェネレーションギャップとかもそうだけど。意識の違いって、やっぱ個人レベルのものだし、結局誰にでも感じちゃうのよね。できればそういう違和感が少ない人と居れたら楽なんだけど」
彼女は肩をすくめて苦笑する。それからマグカップを傾け、それから板チョコの欠片に手を伸ばす。
「人生、チョコみたく、甘くはないか」
「そうだね」
人は生きている以上、たくさんの違いを受け止めていかなければいけない。自分と他人の望むものが違うことを知り、それぞれにそれぞれの人生があることを知り、同じだけの幸福は決して用意されていないことを知り、それを積み重ねて今まで生きてきた。これからもきっとそうだろう。
僕らがいくら長い時間を共にしても決して全てが同じではないから、互いの在り方や考えに違和感を持つこともあるだろう。
彼女がいうように、それはあまり気持ちのいいものではない。そのもどかしさが積み重なることで別れが来ることもありうるのだから。
それでも。
「甘いだけじゃないから、」
僕は小さく呟く声に、彼女はそっと僕の目を見た。
「きっと世界は面白いんだ」
全てが同じであれば、それはきっとつまらない。何かが違うからこそ、初めて見える世界もあるのだろう。
彼女は少しだけ俯き、それから板チョコを僕に差し出しながら言う。
「甘いだけじゃあ、チョコレートはおいしくないものね」


10/01/29  もこ
 

拍手

PR
COMMENT FORM
NAME
TITLE
COLOR
MAIL
URL
PASS
COMMENT
TRACKBACK
この記事にトラックバックする:
SS girl in HOME SS Knockin’on Heaven’s Door