「朝ごはんには納豆」
「納豆嫌いな意味が分からない」
彼はご飯大盛りのお茶碗に納豆を投入しながら言った。納豆にはしそドレッシングが加えられていて、美味しそうな香りが鼻に届く。
「ああ、結構居るよね納豆嫌いは」
「味のバリエーション無限大の美味さなのにな」
彼は納豆かけご飯を頬張りながら、もごもごと喋る。唇の間に糸を引いていて、間抜けだ。
「ねばりとか、独特の味だし。仕方ないんじゃない?」
そういう私は納豆にマヨネーズとからしを加え、ぐるぐるとかき混ぜる。個人的には少し粘り気が固くなるくらいにかき混ぜるのが好みだ。
「醤油、マヨネーズ、お酢、ドレッシングもろもろ」
「ポン酢とかも私は好きかな。あと卵ね」
「ああ、生卵と納豆の相性は奇跡としか言いようがないな」
彼は嬉しそうに笑いながら、ひょいひょいと大盛りご飯を平らげる。
「絶対見た目とかで食わず嫌いするやつがいるんだよなあ。食って苦手っていうならまだしも」
「昨今の食事事情は、家庭事情に反映されてるよねえ」
きちんとした、かつ美味しいご飯を家族で囲む家庭にあれば、家族崩壊なんて起こり得ないと思うのだけれど。きっとそれが難しい世の中なのだろう。
「別に納豆じゃなくてもいいけど。日本食を食べるの義務付けたらいいんじゃないかな、とか最近思うわ」
「お魚とか? まあ確かに肉ばっかりじゃあ駄目だよねえ」
「秋刀魚とか食べたい」
彼はご飯大盛り二杯目をお茶碗に盛り、今度はぱらぱらとわかめふりかけをかけ出す。納豆は一食に一パックと決めているのだ。
「大根おろしと一緒に食べると、美味しいよねえ」
「もずくとかもあると、幸せが二倍な」
私はその素敵な食卓を思い浮かべて、思わず「ひゃあん」と黄色い悲鳴を上げる。
「私的には、お味噌汁があるかないかで、随分と幸せ度合が変わるかなあ」
「ああ、味噌汁かあ。飲みたいなあ」
彼はまたももぐもぐと口を動かしながら言う。
「今日お味噌買ってくるよ」
先日大量に作った豚汁で使いすぎたせいで、今はお味噌が切れているのだ。
「まあ何はともあれ、俺は思うわけだよ」
彼は大盛りご飯二杯目を完食して、満足げにふうと息を吐く。
「なに?」
「白米があれば、生きていける」
まったくだ、と私は頷く。と同時に、先ほどからずっと無意識に混ぜていた納豆にようやく気付いた。
「あーあ」
好みの粘り気を通り越して、びっくりするほどのねばねばになった納豆を、私は白いご飯にかけるていく。
これが一日の始まり。
幸せな一時。
10/01/26 もこ
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