「傘」
「雨の日に散歩っていうのも乙なものですね」
彼のそんな言い回しに、私は笑った。
「そうでしょう」
道には日曜でも雨の日には人通りの少ない遊歩道と、二人並んで歩く。休日に家でだらだらしているのに耐え兼ねて、散歩に行こうと誘った私に「雨じゃないですか」と不満たらたらだった彼も、今は楽しそうに雨でぼやけた街を眺めている。
「まあ、私は雨の日の散歩も好きだけど、何より傘が好きかな」
「へえ? なんでまた」
「この形とか。可愛くない?」
私はくるくると水滴が飛ばない程度に傘を回しながら言う。
「うーん」
彼は苦笑しながら私の傘を眺める。
「それは、わからないかな」
「そっか」
私は少し苦笑して、水溜りを避けるようにジャンプする。ぴちゃぴちゃと音が鳴って、足元の水が跳ねた。
「新しい傘を買ったら、また一緒に散歩しようか」
私が言うと、彼は嬉しそうに頷く。
「僕も、新しい傘欲しいです」
「どんな?」
私が尋ねると彼は胸を張る。
「番傘」
その妙な嗜好がおかしくて、私は笑った。
10/02/01 もこ
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