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「転げた石ころのようになって」


「馬鹿だよなあ」
「なにが?」
「他人」
「はあ」
彼の真面目な声に、私は相槌程度に答える。
「何かに怒ったり、勘違いしたり、見下したり、悲しんだりとか。そういうレベルが低いっていうか。自己中心的に物事を見過ぎてて共感できないっていうか」
「クラスメイトとかの話?」
「いや、もっと。教師とか、親とかもだし、例えば政治家とかも含めての話。別に腹が立つとかじゃないんだけど。言ってることがあんまりに的外れで、飽きれるっつか。結局みんな主観を客観と信じて話してるっていうか」
「わからなくもないけど」
頭の善し悪しに関わらず、自分の言葉に絶対的な自信を持っていたり、自分が正しいと思っている人の言葉は余りにも表面的だ。内側にこもっている物を感じないから、聞いていてさめてしまうことは多々ある。
「もっとさ、自分を顧みなきゃいけないよな。自分の行動の意味とか理由とか、ただ苛立つだけじゃ駄目だ。それを説明できて初めて、意味があるのに」
「大声で叫べば、ロックンロールになると思ってる子が多いんじゃない?」
「それ、なんだっけ」
「アジカンのね、新しい世界」
私が答えると彼はああ、と頷く。
「きちんと言葉にしなきゃいけないところを省いて、分かってくれよって叫んでるだけ。叫ばない奴は叫ばない奴で、分かってくれない相手を低能呼ばわり。飽きれるくらい、馬鹿だよなみんな」
彼はそう言って、それから自嘲気味に髪をかく。
「ま、言ってる俺も馬鹿なんだろうさ。こうやって他人を見下して、自分が優れてると思ってんだから」
真面目な人だ、と私は思う。自分の言葉の意味を知っているから、彼はそうして悩む事ができるのだろう。私は彼のそういうところが、とても好きだと思う。
「それが、人間なんだろうな」
「そうだね」
間抜けで、的外れで、自己中心的。それこそが、人という生物の性とも言えると私はぼんやり思った。
「馬鹿だよなあ」
彼は呟く。
その馬鹿が、誰に宛てられたものなのか、私は知らない。


10/01/31  もこ
 

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