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「いつかの翡翠」


「僕、自分のいいところがわかんないんだよ」
学校の屋上は夏の日がダイレクトに差してくる割に、風で割と涼しい。
「みんな、僕を良い奴だと言ってくれる。でも、自分で自分のいいところが分からないから、みんなの言う事が僕には理解できない」
彼は別段興味もなさそうに街を見下ろしながら、ふうんと相槌だけを打つ。
「僕は別に、何もしていない。ただ普通に会話して、受け流したり笑ったり、それくらい。普通にしてるだけなのに」
みんなは何故、他の誰かを虐げるのだろう。僕も彼らと同じなのに。
「僕がみんなにとって必要な存在だなんて思えないから、余計と分からないのかも。みんなが言う好き嫌いとか、うざいとかそういうのも含めて」彼はあくびをしながら空中に向けてくるくると指を回している。
「それになんだか、自分が他人を騙しているような気分で、なんだか申し訳ないんだ」
僕がそう言うと、彼は僕の方をふっと見て笑った。
「おいおい、何だよ申し訳ないって」
「だって、僕は良い奴でもなんでもないのに。そういう風に思われてるのずるいんじゃないかって」
「変な奴」
彼はけたけたと笑って、また街を見下ろす。
「別にいいじゃん。そういう謙虚なとこが、さ、多分お前が良い奴って呼ばれる理由だろう」
「そうかな」
「さあ? 俺の想像」
彼はさっぱりと言い切る。僕は彼のそういう、何かを誤摩化したりしない正直さがとても好きだ。
「ま、俺もお前の良いとこなんかわかんねえけどさあ」
「うん」
「俺は自分のいいとこはわかるぞ」
彼はそう言って真っ直ぐに立つ。
「なに?」
僕が尋ねると、彼はいつものにやりと笑って、手を挙げる。風が、強く吹く。
「飛べるとこだ」
彼の体が宙に浮く。彼のネクタイが風に揺れる。
僕はそれを見つめながら、一つだけため息を吐いた。
「うらやましいよ」

10/02/03  もこ
 

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