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「ある夜の話」


だだずんだん、だだずんだん、いえーいえー。
頭の中で倉橋ヨエコの声がリピートしててマジなんか頭のネジとか飛んじゃってんじゃないのとか思うけど私はいつも通り正常だ。頭は軽いし生理は一週間前に終わったばかりで、セックスは気持ちいいし全部すっきり快調。こんな感じで人生いつまでも快調だといいなあとか思うけど、そんな世界じゃあ倉橋ヨエコは歌わんわ、とも思うので、神様お願いそんな世界にはしないでね、って私は別に神様信じてないけど。
で、そんなこと悶々と考えてたら隣で、素っ裸間抜け面晒してる男けど愛しくてたまらないマイダーリンが小さくいびきをかく。ぐおー。
「あははは」
もう何が面白くて笑ってるのか分からないけれど、夜寝る前の訳分からない感が意外と私は好きだから別にいいと思う。
「え、なにー」とか言って私の笑い声に起こされた彼がまた間抜けな声を出すからもうたまらなくて、腹筋決壊五秒前。
「なんでもないよ」
震えながら布団の上でごろごろーって、なんか子供に戻ったみたいだけど別に私は今も大人になれなくて、結局子供の延長線上で、それはきっとみんなそうなんだと思う。中学時代は親にひたすら反発して、高校時代にようやく大人もイライラしたりすんだなーとか分かったりして、大学に来てようやく私もあの人たちと何ら変わりない、人間なんだってのを思い知る。だから布団の上でごろごろしたりしたって、別にいいじゃない。人間だもの。
「うるさいよー」
「ごめんごめん」
「寝れないの?」
「うーん、ちょっとだけ」
ふうんとか言って眠たげに布団を被っちゃう彼、まるで芋虫。これ以上うるさいと不機嫌になられちゃって、あとで色々大変だから笑うの堪えて私は下の下着だけ履いてふらーっとキッチンに行く。そんでもってグラスに三つくらい大きめの氷を入れて、冷蔵庫の上の梅酒を注いで梅酒ロック。まじ美味しい。アルコール、マジ最強。
ぶわーっと顔が赤くなるのがわかる。体がぽかぽかしてきて脳みそもぐでぐでのでろでろだから、きっとこのまま布団直行できっと幸せに安眠できるんだけど、なんだか勿体無くて私はだらだら一人で梅酒ロックばっかり飲む。冷蔵庫の中にビールとチューハイが入ってたけどビールは不味いしチューハイは甘過ぎてパス、やっぱ梅酒最高だわとか思ってがぶがぶ飲んでたらいつの間にか瓶一本空けてて、足もとがふらつくくらいぐでんぐでんだ。私酒弱えー。
グラスを流しに持っていって、おぼつかない足取りで布団の前にもどったらやっぱり芋虫が居て、笑いそうになるからそれをこらえて、そしたら今度はものすごい寂しくなる。
「うえええーん」
馬鹿みたいな声で泣くけど今度は芋虫も起きなくて余計寂しくて、なんかこんな幸せな感じもいつか忘れちゃったりするんだとか思っちゃう。どうしようもないんだけど人っていつか離れなきゃいけないんだなーってそりゃ当り前で、その上で私はこの人と付き合い始めたはずなのに人間上手くいかないな。
もう寂しくて苦しくてぶえぶえ泣きながら布団に入ると、ようやく彼が眼を覚ましたみたいで、眠た気なのにすっごい優しい声で「どうしたの」とか聞いてくるから、やっぱり幸せでたまらなくて、彼に抱きつきながら私はたくさん泣いちゃって、顔とか絶対しわくちゃでひどい。
やっぱり私はこの人が好きで、もう愛しくて離れたくなくてずっと心配されてたいから笑ったり泣いたり忙しい毎日なんだけど、そんな毎日が人間らしくてきっと幸せなんだ、きっとそうだ。
だから私は彼のやわらかくて暖かい腕の中でたくさん泣いて、それから明日また笑うと思う。
それがきっと好きってことじゃん。


10/01/15 もこ
 

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「お母さん」



「じゃあ、明日には引っ越されるんですか」
「ええ、いきなりでごめんなさいね」
いつもの公園のベンチで、彼女はいつもの困ったような笑ったような、どちらともつかない表情で言った。
「いえ、そんな」
私は言うべき言葉が見当たらず、ごにょごにょと語尾を濁す。
「本当はそちらのご両親にもご挨拶したかったんだけど、お忙しいみたいだし、ね」
「すみません」
私は申し訳なさに俯く。うちの両親は共働きで家には殆ど居ないし、連絡も取れないことの方が多い。
「親には、今度会った時に言っておきます」
「最後まで、迷惑かけるわね」
「迷惑だなんて、全然そんなことないですよ」
私がそういうと、ほっとしたように彼女は微笑む。私の大好きな、暖かい微笑み。生まれてこの方、まともに親と向き合ってこなかった私にとって彼女はほとんど母親みたいなものだったのだと、思い知る。
「あの、それで」私は周りを見回しながら尋ねる。「今日は?」
「あの子ね」彼女が言って私は頷く。「会いたくないって。今日会ったら泣いちゃうからって」
彼女はそう言いながら、鞄の中から一枚の手紙を渡してくる。
「ごめんね、一年も相手してくれてたのに。これだけ渡してって、言われてるの」
私はそれを受け取りながら首を振った。
「いいんです、難しい年頃なんだと思うし。私も会っちゃったら、泣いちゃいそうだから」
彼女はそうね、と頷いて寂しそうに笑った。
「住所、教えておくからまた手紙、送ってくれる? あの子、本当にあなたと別れるの、寂しいみたいだから」
「はい」
もちろん、と私は笑う。私だってあの子と別れるのは悲しい。五つも年が離れていたけれど、あの子との話はとても楽しかったから。
「じゃあこれ、私のメールアドレス。あっちに着いて落ち着いてから連絡するわね」
小さなメモを渡して、彼女はじゃあ、と立ち上がる。
「これから、明日の準備もあるから」
「はい」
私も立ち上がり、ぺこりと頭を下げた。
「一年、ありがとうございました」
「私は何もしてないわよ」彼女はまた困ったように笑う。「私こそ、ありがとう。あなたのおかげで、ようやく娘と向き合えるようになったんだから」
彼女はすっと私の手を取る。その手が暖かくて私は泣きそうになる。彼女は優しく、ぎゅっと手を握り、微笑んだ。
私も無理矢理に、ほっぺたをつり上げて涙目で笑う。
「きっと、あなたも大丈夫よ。だからちゃんと、ご両親と話しなさい」
「上手くできるかは分からないけれど、頑張ります」
震える声で精一杯言うと、うん、と彼女は笑ってそれから私の頭を撫でた。
「いい子」
「ふえ」
結局涙が溢れる。
その言葉は、私には優しすぎるんだよ。そんなことを言われたら、もっと寂しくなってしまう。
「ええ、うえええ」
彼女はやっぱりいつもの、困っているのか笑っているのか分からない表情をして、それからお母さんみたいにぎゅっと抱きしめてくれた。
このままあの子から彼女をとってしまえたらと、少しだけ思った。
行かないでよ、お母さん。
そう言いたくてたまらなくなって、余計に涙が溢れた。
何も言えないまま、溢れた。



10/01/15  もこ
 

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「自分のこと」


「何も浮かばない」
こつこつと鉛筆の先で原稿用紙の升目を叩く。
「名前しか埋まらない」
何も浮かばないのが腹立たしくて、馬鹿みたいに丁寧に書いた自分の名前が、これまた腹立たしい。
教室の外はもう随分暗くて、けれどこの作文を書き終えないと僕はここから出られない。
「何も浮かばない」
この一時間で何十回目かの呟きにいい加減飽きてきたのか、教卓でクラスメイトの作文を眺めていた担任はむっと僕を見る。
「お前、それ言ってる暇あったら、何でもいいから適当に書けよ」
適当と言われても、と僕は肩をすくめる。というか国語教師が適当に書けなんて言うもんじゃないだろうに。
「自分のこと書けって言われても、難しいっすよ」
「真面目だなあお前」
「生徒に向かって、真面目が物珍しいみたいな言い方しないで下さいよ」
「今時の高校生っぽくはないだろ」
けたけたと笑う彼も随分教師っぽくはない。口には出さないけれど。
「真面目に取り組んで何も浮かばない奴は、大体適当にしか書かねえしな」
まあその通りだとは僕も思う。ただ、いまいちそうして適当に流すことには違和感を感じずには居られないのだ。
「なんか悔しいじゃないですか、適当って。せっかく書くならきちんと考えてやりたいわけですよ」
「まあ教師としては応援したくなる意見だけどなあ」
彼は苦笑しながら、言った。
「そう思ってるなら一行くらいは書けよ、せめて」
「俺もそう思いますけど」
けれど、何も浮かばないのだから仕方ない。何をやっているんだとクラスメイトには呆れられそうだけれど、それも含めて僕なのだと思う。
「なんていうか、自分のこと書けって言われて書けないってことは、自分がないってことじゃないですか。それこそ適当に書き上げるってことは、多分どっか適当な人間てことだろうし。結局他人からしたら不器用に見えるんでしょうけど。馬鹿で融通の利かない、そういう人間なんです」
先生はふむ、と頷き、それからふと険しい顔つきで僕を見た。
「お前、口頭じゃなくて、それ文章にしような」
呆れたような顔で彼は言う。まったくだ、と僕は思い、苦笑しつつ肩をすくめた。
「そういう人間なんですよ」


10/01/14  もこ
 

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「自己嫌悪」


「いいよ、もう」
なんて投げやりな、いい加減な言葉だろうと、思った。僕は苛立つ気持ちを抑えて、拳を握り締める。
「私が悪いのなんて、分かってるんだから、そんな責めないでよ」
そうじゃない。責めてるんじゃない。伝えたいだけだ。ちゃんと伝えてほしいだけだ。ただ分かり合いたいだけなんだ。
けれど僕がどれだけ思っても、それが言葉にならない限り彼女には伝わらない。彼女はすっと立ち上がった。
「帰る」
僕の返事も待たず、彼女はばたばたと鞄を引っ提げて部屋を出ていく。ばたん、と強く扉を閉める音が響いた。
僕は何も言えないまま、部屋の中に取り残される。
肩をすくめ、それからキッチンに立ち、冷蔵庫を開ける。ポカリスエットを一口飲み、溜息を吐く。
「なんだかな」
呟いた声は、空しく自分の中に溶けていく。
付き合って半年、彼女は僕から逃げることが多くなった。僕は適当に、曖昧に流してしまうことが増えた。お互いに言葉を交わせず、けれど離れる勇気もなく。付き合い始めたころは、自分がこんな風になるなんて思いもしなかった。僕はもっと自分が人と向き合えると思っていたし、ずっと彼女を好きで居れると思っていた。
ふらふらとベッドに倒れ、まだ布団に残っている彼女の微かな匂いを感じる。
今はもうこの匂いも、彼女の表情やしぐさも、何故だか鬱陶しく感じてしまう。煩わしいと思ってしまう。それくらい僕は彼女と一緒に居ることに疲れてしまったみたいだ。
「気持ち、悪いな」
誰が? 誰よりも僕自身が、一番気持ち悪い。
何も自分から言えないくせに、疲れただの鬱陶しいだの言う権利は僕にはないのだ。
あまりの自分勝手さに自己嫌悪に陥りながら、目を閉じた。
いつか付き合い始めたころの、幸せを思い出す。何でもないことで笑いあい、抱きしめ合う。そんな馬鹿みたいな関係がたった数か月前までここにあったのに。
鼻の奥が少し、つんと痛む。
「まだ、好きみたいだ」
煩わしいなどと拒みながら、心のどこかで自分が彼女を求めていることに気付く。
その事実が酷く痛くて、僕は一人ベッドの上で丸くなった。


10/01/13 もこ

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「その手」



「もう、雪でも降りそう」
駅の改札を出て、耳障りな音を鳴らす踏切の前で彼女は言った。絶対に自分からは離すまいとするように、彼女は繋いだ手を握りしめる。
「そうだねえ」
頷いて彼女のその小さな手を握り返した。頭一個分身長の低い彼女はこっちを見上げ、それから照れたようにふいとそっぽを向いた。同い年のくせに、子供みたいなそういう仕草が可愛らしい。
電車が通り過ぎて、踏切が上がった。
「今日は、うちに泊まる?」
歩き出しながら尋ねると、彼女は小さくこくりと頷く。
「じゃあご飯どうしようかな。多分冷蔵庫の中からっぽだから、何か買わないと」
頭の中に描いた冷蔵庫の中身は、味噌とキムチとマーガリンぐらいだった気がする。流石にそれでは客に出すようなご飯は作れないだろう。
「白菜食べたい」
「お鍋でもする?」
「鶏がいい」
「じゃあそうしよう」駅と家の間には割と安いスーパーがあるので、そこで材料を買い込もう。「夜も冷え込みそうだし、丁度いいよね」
また小さく頷く彼女の頬は冷たい空気の所為かほんのりと赤い。
「寒い?」
「ちょっと」
「マフラー貸すから、ちょっと待って」
片手でのそのそと巻いていたマフラーをほどいて、そのまま彼女の首にかけた。
「お母さんみたい」
彼女も片手で器用にマフラーを巻きながら、じっとこっちを眺めながら言う。
「うん?」
「優しいね、って言ったの」
そっぽを向きながら、ぎゅっと彼女は冷たい手を握りしめた。
「早く、スーパー行こ」
まるでおもちゃを買ってもらう子供みたいに、彼女は早足で手を引っ張る。
「私ヒールなんだから、もう少しゆっくり歩いてよ」
私はそう言って、すこしよろめきながらも、その手を離さないようにしっかりと握りしめた。

寂しがりな私達は寄り添ったり、引っ張ったり、時々喧嘩したりしながらも、その手を離さない。友情とは違うそれを、誇れるかどうかも分からない。あるいは、他人が聞けば軽蔑するような関係なのかもしれない。
だって私は彼女を、愛しているのだ。恋しくて、愛しくて、私はその小さな体を抱きしめる。それは世間からすれば、決して正しい、健全な在り方ではない。それこそ、自分が男ならばどんなに楽だったろう。
けれど誰にも認めてもらえなくたって、結局この想いはどうしようもないのだ。想いを伝えられず自暴自棄になるくらいなら、除け者にされたって私は彼女のそばに居たい。そうしている限り、彼女は私から離れたりはしないのだから。
それは私のわがままだろうか。彼女にとっての幸せはそこにあるのだろうか。まだ私には分からない。
たとえお互いに愛し合っていたとしても、私達は他人だ。それぞれにそれぞれのわがままがあり、幸せの感じ方がある。
たとえ私が彼女と居ることに一番の幸せを感じていたとしても、それは結局私自身の話でしかない。本当に愛しているのなら、時にはその手を離すことも、必要なのかもしれない。
だからせめて、と思う。
今だけは、その手を離さないように。
今だけは、幸せだと思ってくれるように。
こんな私を引っ張ってくれる、彼女が何よりも暖かい気持ちで居れるように。
小さくて冷たいその手を、私はしっかりと握り返すのだ。


10/01/12 もこ

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