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ぼくらの十一巻を読み終えて
改めて感じたところを書きます
ネタばれ含むので
十一巻未読の方はご注意ください


「なるたる」のような衝撃的なラストではなく
むしろ淡々とした、妥当な終わり方だったと思います
十巻で十分予想していた通りに進んだというか
何も変わらないし
何も終わらない
そういう話でした
ただこの作品は確実に一つの漫画史に残っていいくらい
すごい作品だと思います
特に後半のコモ辺りからの心理描写、戦闘は非常に生々しくて
鬼頭さんの実力を思い知りました 本当にすごい話だった
ウシロは一番きつい選択を強いられた子だったけれど
きちんと戦い抜いてくれてよかった

小冊子については
普通に面白かったのでいいと思います
しかしナカマの胸のないことよ……
あとね 佐々見さんほんと可愛い

何はともあれ鬼頭さんお疲れ様でしたという感じ
次の連載ももう始まってるそうだけれど面白いのかしら
楽しみ

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「アオイカシマシ」


「セックスとかさ、外でしてみたいよね」
「はい?」
彼女が割と平然とした顔で言うものだから僕は変な声を出す。
「そういう狂ってるのが、いいと思うのよ」
もぞもぞと布団の中で動きながら彼女は言った。
「ね、ホント、常識とか倫理とかどうだっていいの。いっそありのまま狂っちゃった方が絶対気持ちいいじゃない」
「そうかも、しれないけど」
「ね、だからしてみない?」
本当に狂っているみたいだと、僕は肩をすくめる。彼女の眼は割と本気なのだけれど、
「今日は凍死するからやめよう?」
外は真っ白な雪で覆われていて、部屋の中ですら息が白くなるほどに寒い。
「知ってる?」
彼女はそういう僕に諭すような口調で言った。
「雪山で遭難したとき、セックスすれば暖がとれるのよ」
「だからなんだって言うんだ」
彼女はしばらく考えるように口元に手を当て、笑う。
「何事も非現実的な方が、楽しいってこと」
現実で十分だ、と僕はため息を吐いた。


09/12/26 もこ
 

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「幸運草と魔女」


「ちょっと、そこの少年」
「はい?」
縁側でぼんやりしていると不意に声をかけられた。振り向くと祖母が廊下に立って居た。
「なに、婆ちゃん」
「あんたにこれあげるわ」
ふっと彼女は葉っぱのようなものを差し出してくる。
「四つ葉のクローバー」
「あんたが持ってなさい、お守りになるから」
そっと彼女は微笑んだ。
「ありがと、大事にする」
「きちんと形にできるかしら?」
「大丈夫」
僕は笑って、四つ葉のクローバーをそっと握り締める。
「俺のおまじないは婆ちゃん直伝だから」
ぱきん、と小気味のいい音が鳴って、手の中のクローバーは小さなブレスレットに変わる。
「上出来」
彼女は満足げに笑って、くしゃくしゃと僕の髪を撫でた。
「私は、いい弟子を持ったね」
「そうかな」
「そうとも」
彼女はゆっくりと頷く。
「もう行くの?」
僕が尋ねると、彼女はそっと笑った。
「また一年経ったら帰ってくるわ」
婆ちゃんの姿がぼんやりと消えていく。
「またね、婆ちゃん」
僕がそっと呟いて、手の中のブレスレットを握り締める。
と、家の中からどたどたと足音が聞こえ、さっきまで婆ちゃんが立っていた場所にばっと誰かが飛び出してくる。
「もしかして母さん来てた!?」
僕の母が精霊馬にするであろう、胡瓜と割り箸を持って叫ぶ。僕が頷くと母は不服そうに眉を寄せた。
「私に一言くらい挨拶していけってのあの魔女」
毎年僕の前にしか現れない婆ちゃんに不満なのか、母はぶつぶつと言った。
彼女は残ろうと思えば幽霊のままでこの世界に留まれると思う。彼女はそれくらいのことができる魔女だった。でもそれは、人間らしくないことだと婆ちゃんは分かっているんだと思う。
彼女は魔女だったけれど、人間として生き、死んだ人だった。
「それが、婆ちゃんらしいだろ」
僕がそう言うと、母は肩をすくめた。


09/12/25 もこ

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「ループ」


「私死ねないの」
プリーツスカートに袖無しのセーター、長袖の白いシャツといういかにも女子高生な格好をした見知らぬ少女は言った。
顔立ちはさっぱりとしていて、少し鼻が高い。目も髪も随分黒く、深い色をしていた。じわじわと暑い太陽が照らしているにもかかわらず、汗をかいている様子がない。
「わかる?」
「あまり」
僕は即答する。体中が汗で蒸れて気持ちが悪い。
「何されても死ねないの」
にやりと口元を歪ませ彼女は言った。
「そういうのって、怖くない?」
「あまり」
僕は即答する。ネクタイを緩め、ため息を吐いた。
「試してみる?」
彼女はそう言って、何か黒く重々しい物を差し出してきた。現実感が無く僕はぼんやりとそれを見つめる。僕の視覚が狂っていなければ、それは銃だった。
「安全装置とかは外してあるけど。信じられないなら見てて」
彼女はそう言ってその銃を歩いてくる男子高校生に向ける。ぱん、と耳をつんざくような音が響いて、目を閉じる。先ほどまで生きていた男子高校生は頭を貫かれて死んでいる。アスファルトに大量の血が流れている。
「ほら。これで私を狙って」
僕は気付くと銃を受け取っていて、彼女を狙っている。
指が僕の意思と関係なく、引き金を引く。反動で体が後ろに吹き飛ぶ。情けない形で尻餅をつき、ぼんやりと前を向いた。
「ね?」
彼女の片目が消えていた。吹き出るように血が溢れているのに、彼女は笑っていた。はっとする。僕は彼女を知っている。
「私死ねないの」

*

「先生」
目を開けると夢で見た女子高生が目の前に居た。もの凄い嘔吐感を感じ、口を押さえる。ひどい悪夢だ。
「吐きそう? トイレあっち」
彼女が指差した方向に駆け込み、便器に吐く。それからしばらくぼんやりと吐いた後の便器の中を眺めながら、ぐわんぐわんと鳴る頭を落ち着かせる。
トイレから出て、部屋を見渡す。
「ああ、そうか」
そこはラブホテルだった。
「すごいうなされてたね、先生」
彼女はにやりと笑いながら、ベッドの上で靴下を履いている。短いスカートの中から昨日の夜に見たショーツが見えた。
「どんな夢を見てた?」
「君が銃を渡してきて、俺がそれを君に向けて撃つ夢」
僕は思い出しながらまたやってくる吐き気を押さえる。
あはは、と彼女は笑った。
「先生」
彼女はすっと僕の近くまで寄ってくる。
「それ、夢じゃないよ」
淡々とした声はあまりに現実味がない。
「先生は私を撃って、それからこのラブホテルに来て、たくさん私を犯して寝ちゃったの」
その間に傷は治っちゃったけど、と彼女は付け足す。意味が分からず僕は震える。
「ほら、またそれで私を撃って。私を殺して。まだ死ねないの。まだ死ねないの」
僕はいつの間にか夢で見た銃を持っている。気付くとそれを彼女に向け、そして夢と同じように引き金を引く。また反動で尻餅をつき、目を上げる。
彼女の片目が消えていた。吹き出るように血が溢れているのに、彼女は笑っていた。
「まだ、死ねないの」

*

「先生」
目を開けると夢で見た女子高生が目の前に居た。


09/12/24 もこ
 

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「ヨーグルト」


「ありゃ、どしたのそのマフラー」
「もらった」
僕はカバンをソファーに放り投げながら答える。
「誰によ」
姉はにやにやとしながら聞いてくる。僕はキッチンまで行き、冷蔵庫を空ける。中にあったヨーグルトを一つ手に取り、戸棚に入っているスプーンを探す。
「クラスメイト」
「はあん? 告白でもされた?」
どちらかというとしたかった、と心の中で呟く。ホームにたたずむ彼女が脳裏に焼き付いている。あんな絶好のチャンスでも優柔不断な自分はこの思いを伝えられなかった。自己嫌悪。
「なに変な顔してんの」
「まじにへこんでんの」
「ありゃ、あんたもそんな年ごろかあ」
姉は少し困ったように眉を寄せた。僕はぺらぺらの鞄を床に投げ、ソファーに座る。
「あんた奥手だもんねえ、面はいいくせに」
僕は黙って、ヨーグルトを食べる。甘い。
「でも、何もしないで後悔ばっかりするのはよくないからね」
「それはわかってる」
僕はぼんやりスプーンの上でゆれるヨーグルトを見つめる。
「一年片思いでようやく近づいたんだから、ちゃんと言う」
姉はそう、と頷いた。彼女は相手の気持ちを茶化さない。特に僕はささいなことでうじうじするような後向き人間なので、気を遣われているのだろう。
「そのマフラー大事にね」姉は優しく笑って、僕も気恥ずかしさに笑う。
「ところでさあ」姉がすっと僕を指差す。「それ私のなんですけど」
僕はしばらくぼんやりとその指先を見つめ、それから手元のヨーグルトを見る。
「あ」
「一口だから許す、返せ」
目がマジだった。
僕はさっとヨーグルトとスプーンを渡し、すみませんと謝る。彼女はありがとと笑ってヨーグルトを頬張る。
「まあ言えることはあれよね」
「うん?」
「恋はヨーグルトよか甘くないから」
「そういうくだらないことさえ言わなきゃ尊敬するのに」
僕は肩をすくめた。マフラーからほのかに彼女の香りがして、すぐ消える。ヨーグルトの部分は抜きにして姉の言うこともあながち間違いではないかもなと思う。
「恋は甘くない」
まさに。


09/12/22 もこ
 

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