忍者ブログ
リンク
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「歩道橋」


かんかんと、もう随分錆びだらけの歩道橋を駆け上がっていく彼女の靴音が響く。
僕が階段の中ほどに到達したとき、彼女はすでに階段を昇り切っていた。彼女は僕を急かすように、こいこいと手を振る。まだ冬の風は冷たくて、マフラーに顔を伏せながら、僕はゆっくりと階段を昇る。彼女はそんな僕に不満そうな顔をして、それから歩道橋の反対側へと駆けていく。
僕は立ち止まり、彼女を見る。彼女の眼は今にも泣きだしそうで、僕は溜息を吐いた。彼女が言葉なく訴えるその眼が僕は苦手で、上手く付き合えないのだ。
何も言わないままでは、何も伝わらない。
分かってほしいなんて、ひどいわがままだ。
ありのままを僕は伝えて欲しいのに。
包み隠したような回りくどい言葉とか、感情の裏返しとか、そんなのどうだっていい。どんなに醜くても痛くても苦しくても卑しくても馬鹿でもいいのに。
心から泣き叫ぶような一言があれば、僕はそれでいいのに。
そんな眼をされると、僕はどうしたらいいのか分からなくなるのだ。胸がぎゅっと締め付けられるようで、泣きそうになるのだ。
僕は反対側の彼女に叫ぶ。
その言葉は歩道橋の下を通って行ったトラックの音で、辺りには響かなかった。
僕は彼女の眼を見る。
彼女は少しだけぼんやりと、僕を見つめた後で、急に顔を赤くして俯いた。きっと泣いているのだろう。一生懸命こぼれてくるものを袖で拭いながら、肩を揺らす。
たった数十メートルの距離の間を、僕は歩きだせないまま。遠くで泣きじゃくる彼女の姿を見ていた。
本当に彼女を好きなら、僕はきっとあそこまで走っていく。叫んだ言葉が本当なら、今すぐにでもきっとそうする。けれど僕は今もなお迷っている。自分の中にある感情が、恋なのかどうかも見えないまま。彼女の姿に迷っている。
空には赤く燃えるような夕焼けが、赤く錆びついた歩道橋の手すりを照らしながら浮かんでいて、風はまだ冷たいまま。
僕はずっと立ちすくんだまま、彼女が駆け寄って来るのを待っているだけだった。



10/01/25  もこ
 

拍手

PR
「作者の選択」



「あ」
と思ったとき、私の意識は黒く沈んだ。

残念なことにこの物語の主人公は死んでしまった。理由は大したものではないので別段ここで語る必要もないだろうが、しかしこれは困ったことになった。
物語が完結する前に主人公が死んでしまったのである。これでは物語が完結しないどころか、まず進行しない。物語には必ず語り部が必要であり、そしてそれはこの物語を描いている作者が必ず定めなければいけないのである。
もちろん物語によっては一人称ではなく、三人称の描かれ方をする作品もある。しかしながら作者は三人称がいまいち苦手であり、一人称でないと上手く物語が進行させられないのだ。
さて、そこで問題だ!
このどうしようもない状況で、どうやって物語を完結させるか?

3択―ひとつだけ選びなさい

答え①ハンサムの作者は突如この状況を書き進めるアイデアがひらめく

答え②仲間がきて残りを書いてくれる。

答え③どうしようもない。現実は非常である。

できれば答え②に丸をつけたいところだが、作者には一緒に作品を書いてくれるような仲間が居ないので期待はできない。
今すぐ書き仲間が都合よくあらわれ、アメリカンコミックヒーローのようにジャジャーンと登場して「待ってました!」と助けてくれるってわけにはいかない。
というわけで、やはり①を選ぶしかないようだ。
作者はキーボードを打ちながらこの状況を打破するアイデアを考える。
思い浮かばない。
考える。
思い浮かばない。

答え③

こんなことを考えているうちに、何故主人公が死んでしまったのか、そもそもどんな物語だったかも頭から消えてしまったのであった。
現実は非常である。

しょーもないしょーもない。


10/01/24 もこ

拍手

久々にふたばで絵描いた わー

なんかねー多分ふたばで絵描いてるひとが
粉子っぽいキャラ描いてたんだけど
なんか粉子描いてもらったのかまったく違うキャラなのかわかんないんだよねー
コメントとかもなかったし

粉子だったら嬉しいな~とか思いながら
久々に描いた粉子は随分ロリっ子だったという……

d7bd8e40.png










手の描き方ってわかんないよね
ホントそこだけに三十分かかってるもん
課題しろよって話だよね

いいんだよ今日は学校でいっぱいやったから!!!!
ねる!!!!!!!!!!!!!!!
うそ!!!!!!!!!!!!

SS書いてきまーす☆ミ
 

拍手

「黒い影」



「ふあ」
彼女は大きくあくびをもらし、それから一眼レフを構えなおす。
「夜明け前に起きるのって、つらいねえ」
「いや、まったく」
彼女に付き合わされて起きている自分が馬鹿らしい。マンションの屋上はまだ肌寒い空気が首筋をかすめていく。
「ごめんって。でも、予報じゃあ今日の今ぐらいがここ通りすぎる時間なんだよ」
「何回も聞いた」
別に謝られても困るので、僕はそっぽを向く。空はまだ仄暗い群青色に包まれていて、けれど東の空はほのかに白くなり始めている。
「たまには早起きするのもいいだろ」
「ありがと」
彼女はにひっと笑って、腕時計を覗く。
「もう、そろそろかな」
「あー、あれか?」
遠くの空にぼんやりと黒い点がぽつぽつと見え始めた。
「来た! 来た、絶対あれだ!」
彼女は興奮したように声をあげ、一眼レフのファインダーを覗く。
黒い点は徐々に近づきながら増えていく。
「うへ、すごいいっぱい居るなあ」
「こんなに大移動するのは、珍しいよね。やっぱりそういうの、撮っとかないと」
彼女は嬉しそうに笑い、僕はこくりと頷きながら目を凝らして黒い点を見つめる。
「ああー、見えてきた」
「一瞬で通り過ぎるから、ちょっと待って」
集中するように息をとめ、じっと空に向けて彼女はレンズを構える。
と、太陽が昇り、辺りに光がつつまれる。
眩しさに、目を細めた瞬間、びゅっと風が鳴った。
細く閉じかけた瞳の向こう側で、何百匹という黒い影が南から北へと物凄い勢いで通り過ぎて行く。
「あ」
と言う間に、黒い影の集団は僕と彼女の頭上を越えて、北の空へ消えていく。その最後の一匹を、僕は見つめた。
羽を広げ、ジェット機のようなスピードで飛ぶその姿は、とても神秘的だった。
と、その一匹を追いかけるように彼女の一眼レフのシャッター音が、一度だけ聞こえる。
僕は黒い影を点になるまで見つめ、それから彼女に振りかえる。
「ほんとに、一瞬だったな」
彼女はほう、と息と吐きながら構えた一眼レフを下ろし、それからふるふると震えながら口を開いた。
「一枚しか、撮れなかった」
「だな。シャッター音、一回しか聞こえなかったし」
「見るの怖いなあ、失敗だったらどうしよう」
彼女は言いながらボタンを操作し、ディスプレイを覗く。
「う、うーん?」
「どれ?」
曖昧な声で彼女が呻くので、僕は隣に立ってディスプレイを見る。そこに写っている画像は、真っ白の背景に羽を広げて飛ぶ黒い影だった。
まさに、僕が見たままの写真で、僕は驚く。
「これじゃ、飛んでるのが何か、わかんなくない?」
彼女は少し不安そうに言うので、僕は微笑んで首を振った。
「大丈夫」
「ほんとに?」
僕は頷いて、もう一度ディスプレイを見直した。
そこには、はっきりと、空を飛ぶペンギンの影が写っていた。


10/01/23  もこ
 

拍手

「宇宙検閲官の部屋で」



「待っていたよ」
彼はすっと嬉しそうに笑いながら言う。
「ここは、君らが特異点と呼ぶ場所。と同時に君らが宇宙検閲官と呼ぶ事象、つまりこの僕が住む部屋さ」
がらんとした真っ白な世界は、果てしなく遠くまで続いているようで、目と鼻の先に壁があるようにも感じる。彼と私の間には0と1がある。
「ああ、言っておくけど、僕の姿や言語、この部屋のイメージは君の思考概念から生まれている虚構だから。実際に誰の目にもこうやって見えるわけじゃあないんだよ」
いつの間にか彼は白い椅子に座っていて、すっと長い脚を組む。
「さて。いつまでも無駄話をしていられるわけでもないんだ」
私は立ったまま、彼を見つめている。
「僕は検閲官として、君を処理しなければならない。理由はわかるね。宇宙検閲官は、特異点への観測、到達を阻む存在なのだから」
彼は少しだけ、遠くを見るような表情で私を見つめ返す。
「処理、とは言え死ぬわけではないよ。ここまでたどり着いた君は消えてしまうけれどね、君の意識は再びこの特異点にたどり着く道に気付いたところまで戻ってしまうだけさ」
彼は椅子から立ち上がり、私の目の前に立つ。
「つまりね、この特異点に到達できたこと自体が、既に時空間を超越しているということだからね。不可逆という概念はないんだよ」
私は背の高い彼の顔を、見上げた。
「君は一度でもここまでたどり着いたことで、永遠に特異点への到達と、そのスタートラインへの回帰を繰り返しているんだ。並行世界から並行世界へとね」
彼はすっと私の頬に触れた。
「さあ、次の世界の君が再びここにたどり着くことを、願っているよ」
私は目を瞑る。唇が塞がれる。
「僕はずっと待っているから」
頬から離れた彼の手を取り、私は目を開けて、笑った。
「大丈夫」
ぎゅっと握り締める手は、暖かい。
「だって、私は」
その運命にあるのだ。
何万回も繰り返した邂逅を私は全て覚えている。
この手の中にある、数式が、必ず私をここまで導く。
そして、何より。
「あなたを、愛しているから」
彼はすっと微笑んでゆっくりと扉を開く。
私はすっとその向こう側へ、足を踏みしめた。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」


10/01/22  もこ


以下解説

今回は
物理学方面の言葉を多様していますが
書いてる自分がちんぷんかんぷんだったので
読んでる方はもっと分からないだろうと
一部解説してみますが
多分ほとんど間違っていることが前提です
おおよそのイメージでとらえてもらえると嬉しいです


「特異点」
体積はないくせに密度は無限大というところ。これは現実的にはありえない、この世の物理法則なんて一切無視した数式らしいです。
ブラックホールの中心にあるとされています。ブラックホールの中心以外に発生するものは「裸の特異点」と呼ばれるそうです。
今回は「並行世界への通過点」という風な解釈をしています。


「宇宙検閲官の部屋」
宇宙検閲官仮説というものを元にしています。
先に述べた裸の特異点を隠そうとしている超宇宙意思みたいなものとしています。
「並行世界への通過点」の番人的な解釈で書いています


「並行世界」
これは分かると思いますが、この世界の「こうあったかもしれない可能性」の世界です。様々な可能性がこの世には分岐しており、それぞれにはそれぞれの世界がある。
そしてそれらを繋ぐ共通のものが、「特異点」であるという風に書いています。


物語の大まかな形としては、
「特異点」にたどり着くための数式に気づいた瞬間をA、
「特異点」にたどり着き、宇宙検閲官に出会った瞬間をBとすると、
彼女はBにたどり着いた瞬間、Aに限りなく近い世界、いわばA¹に回帰させられ、
またそこからBにたどり着くと、次はA²というように、
永遠Aに限りなく近い並行世界と特異点を行き交い続けるという
無限ループが発生しています

多分これはネタとして面白いので
もう少し練れたら練ってみたいと思います

拍手

前のページ 次のページ