忍者ブログ
リンク
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「愛してる」


「愛してる」
びっくりするくらい陳腐なセリフを、びっくりするくらい真っ直ぐに彼は言った。
馬鹿みたいに単純な言葉だなあと思うのだけれど、彼の言葉にはそういう俗っぽさを感じない。シンプルな言葉を、俗っぽさや馬鹿っぽくなさを感じさせることないのは一つの才能だと思う。
「ありがとう」
返す言葉に力がなかったのは、もう終りが近いからだ。もう充分に覚悟はしてきた。大丈夫。泣いたりはしない。だってこんなにも握った手が暖かいんだから。
「ゆっくり、おやすみ」
「うん」
その優しい声のお陰で心は動じなかった。瞳が閉じていく。
「おやすみなさい」
最後の言葉は安らかで、そこに死があるなんて、感じさせない。
「ああ」
しばらくの沈黙の後、私は動かなくなった手を離し呟いた。
「なんだ、実感なんて全然湧かないや」
彼女は安らかに、覚めることのない眠りについていた。けれどそれが私には全然感じられない。だってたった数分前にはまだここにあったものが、永遠に届かない場所にあるだなんてあり得ない。
それでも彼女は永遠に目を覚ますことはない。それが実感できずに、私はぼんやりと彼女を見ていた。
「そうだね」
彼は少し遅れて私の言葉に返事をする。
「今はまだ、きっと分からない。それでも過ぎていく日常の中で、自分が大切なものを失ったという実感をしていくんだ。悲しいけれど、人というのはその時の出来事をすぐには清算できないから」
彼はとつとつと語りながら、彼女の手を握り続けていた。
「本当は大声で泣いて、叫んで、たくさん悲しんで、それから気持ちを切り替えられたらいいのだけど。僕はそういうことがうまくできないんだね、きっと。ゆっくり失ったことを理解して、ゆっくり悲しんで、ゆっくりと慣れていくしかないんだろう」
「辛くは、ない?」
「そうだね。きっと辛い。けれど、大丈夫」彼はつぶやくように、けれどはっきりと言う。「僕は今まで彼女で生きてきた。楽しくて慌ただしくて、一瞬の日々だったけれど、それを思い出せる限り、僕は大丈夫だよ」
彼はゆっくりとそう言って、強く握っていた手を離した。
そうやって少しずつ、彼は彼女と別れていくことに慣れていこうとしているのだろう。
「ねえ、おじいちゃん」
彼は私に振り向く。その表情はびっくりするくらい穏やかで、私は泣きそうになった。
「おばあちゃんのこと、本当に好きだったんだね」
彼はああ、と呟き、深い皺を伸ばしながら微笑む。そして再び彼女に向き直り、言う。
「愛している」
びっくりするくらい陳腐なセリフを、びっくりするくらい優しい声で、彼は言った。


10/02/02  もこ
 

拍手

PR

イナズマイレブン新展開すぐる^^^^^
要らない子揃い踏みで大爆笑の俺^^^^^
何故アフロディ呼ばれないの^^^^^
呼ばれたメンツがメンツなだけに
ドン引き極まりない展開が予想できるぜ

あと相変わらずマネジ組は普通に可愛い
なつみさんの私服 だと……

今後の展開期待大です^^^^

拍手


「お誘い」


「飯とか、もう食べた?」
がやがやとした校舎は文化祭真っ最中で、クラス毎のオリジナルポロシャツやコスプレをした生徒達、保護者や一般客が溢れている。
高校最後の文化祭、何もしないままに終わるものかと僕は彼女に話しかけた。
「まだ。友達がみんなライブとか劇とかで、遅くなるみたい」
彼女は僕の顔を見ると、すっと微笑んで答える。僕は高鳴る心臓を気持ちで押さえ付け、声が震えたりしないように気を引き締めた。
「じゃあ、一緒に回らないか?」ぎこちなくならないように今朝鏡の前で練習してきた笑顔で言う。「俺も食ってなくてさ。他に一緒に回るやついなくて」
「あ、ほんと? じゃあ行く」
彼女はすっと微笑んでくれて、僕はさんきゅ、と笑い返しながら心の中で大きくガッツポーツをする。
「どこが美味しいとか聞いた?」
ふらふらと歩き出しながら僕は尋ねる。
「全然」
彼女は肩をすくめて笑う。
並んで歩いているとよく分かるけれど、僕と彼女にはかなり体格差がある。頭一つ違う身長差の所為か彼女はずいぶん小柄に見え、抱きしめればすっぽりと自分の腕の中に収まってしまいそうだった。なんだかやましい事を考えているような気持ちになり、軽く頭を振る。
と、怪訝な顔で彼女は僕を見た。
「ん、どうしたの?」
「いや、今日、暑いなって」
「まだ九月半ばだしね。でも、来週からは冷え込むらしいよ」
僕の誤摩化すような適当な話題に、彼女は微笑みながら真面目に答えてくれる。
「そっか、もうすぐマフラーの季節だな」
僕が呟くと、ふふ、と彼女は笑う。
「あのマフラー、今年も使ってくれるの?」
「つもりだけど」
「そっか、嬉しいな」
去年の冬に貰ったマフラーは今、部屋のタンスの中にきちんと仕舞われている。
「大事に使ってくれると、編んだ方としては気持ちいいよね」
彼女は本当に嬉しそうな表情をして、その顔があんまり可愛いから僕は緩みそうになる頬を引き締める。
「いや、タダで貰っちゃったし、すごい暖かいし。大事にするよもちろん」
なにより、自分の好きな相手だから、というのは言わない。言えない。
「でも、また使ってないマフラー増えちゃったから、もしよかったら、またあげるけど」
「あ、マジ? 貰えるなら、貰うけど。なんか悪いな」
「いいって。ホント私編み物くらいしか趣味ないから、自然といっぱいになっちゃうし」
彼女はそう言うけれど、貰ってばかりではなんだか男として申し訳ない。
「あーじゃあ、今日の昼飯くらい奢らせてよ」
僕は思いついて言う。
「えー、そんなのいいよ?」
「いや、そのくらいのお礼はさせてくれ」
俺は財布の中にある程度余裕があるかどうかを思い出す。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
彼女はそう言って、ふと廊下に立ち並ぶ模擬店の看板を眺める。
「何食べたい?」
僕が尋ねると、うーんと彼女は考え込む。
「ね、やっぱり奢るのじゃなくて、他のお礼にしてもらっていい?」
ふと彼女は僕の顔を見上げて言った。
「うん?」
「編み物用の毛糸とか買い足したいのと、他にも諸々買い物に行きたいんだけど」
彼女は少し照れくさそうに、視線を落ち着かせずに言った。
「それ、付き合って」
「え、あ」驚いて反応が遅れる。「うん、是非」
僕が頷くと、彼女も頷いて笑う。
「約束ね」そう言って彼女はまた模擬店の看板を眺め始めた。「何食べようか」
思いもよらなかった彼女からの誘いに、先程とは違う意味で胸が高鳴る。
「どうしようか」
返事をしながらも、昼食をどうするかなんて頭から吹っ飛んでいる。
文化祭のざわめきが意味を持たず耳を通り抜けていく中で、彼女の声だけが繰り返し頭の中で響いていた。



10/02/02  もこ
 

拍手

「傘」


「雨の日に散歩っていうのも乙なものですね」
彼のそんな言い回しに、私は笑った。
「そうでしょう」
道には日曜でも雨の日には人通りの少ない遊歩道と、二人並んで歩く。休日に家でだらだらしているのに耐え兼ねて、散歩に行こうと誘った私に「雨じゃないですか」と不満たらたらだった彼も、今は楽しそうに雨でぼやけた街を眺めている。
「まあ、私は雨の日の散歩も好きだけど、何より傘が好きかな」
「へえ? なんでまた」
「この形とか。可愛くない?」
私はくるくると水滴が飛ばない程度に傘を回しながら言う。
「うーん」
彼は苦笑しながら私の傘を眺める。
「それは、わからないかな」
「そっか」
私は少し苦笑して、水溜りを避けるようにジャンプする。ぴちゃぴちゃと音が鳴って、足元の水が跳ねた。
「新しい傘を買ったら、また一緒に散歩しようか」
私が言うと、彼は嬉しそうに頷く。
「僕も、新しい傘欲しいです」
「どんな?」
私が尋ねると彼は胸を張る。
「番傘」
その妙な嗜好がおかしくて、私は笑った。


10/02/01  もこ
 

拍手

「転げた石ころのようになって」


「馬鹿だよなあ」
「なにが?」
「他人」
「はあ」
彼の真面目な声に、私は相槌程度に答える。
「何かに怒ったり、勘違いしたり、見下したり、悲しんだりとか。そういうレベルが低いっていうか。自己中心的に物事を見過ぎてて共感できないっていうか」
「クラスメイトとかの話?」
「いや、もっと。教師とか、親とかもだし、例えば政治家とかも含めての話。別に腹が立つとかじゃないんだけど。言ってることがあんまりに的外れで、飽きれるっつか。結局みんな主観を客観と信じて話してるっていうか」
「わからなくもないけど」
頭の善し悪しに関わらず、自分の言葉に絶対的な自信を持っていたり、自分が正しいと思っている人の言葉は余りにも表面的だ。内側にこもっている物を感じないから、聞いていてさめてしまうことは多々ある。
「もっとさ、自分を顧みなきゃいけないよな。自分の行動の意味とか理由とか、ただ苛立つだけじゃ駄目だ。それを説明できて初めて、意味があるのに」
「大声で叫べば、ロックンロールになると思ってる子が多いんじゃない?」
「それ、なんだっけ」
「アジカンのね、新しい世界」
私が答えると彼はああ、と頷く。
「きちんと言葉にしなきゃいけないところを省いて、分かってくれよって叫んでるだけ。叫ばない奴は叫ばない奴で、分かってくれない相手を低能呼ばわり。飽きれるくらい、馬鹿だよなみんな」
彼はそう言って、それから自嘲気味に髪をかく。
「ま、言ってる俺も馬鹿なんだろうさ。こうやって他人を見下して、自分が優れてると思ってんだから」
真面目な人だ、と私は思う。自分の言葉の意味を知っているから、彼はそうして悩む事ができるのだろう。私は彼のそういうところが、とても好きだと思う。
「それが、人間なんだろうな」
「そうだね」
間抜けで、的外れで、自己中心的。それこそが、人という生物の性とも言えると私はぼんやり思った。
「馬鹿だよなあ」
彼は呟く。
その馬鹿が、誰に宛てられたものなのか、私は知らない。


10/01/31  もこ
 

拍手

前のページ 次のページ