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「ポテトとロック」


「有名になるってのも、美味くねえ話だよなあ」
席の込み合う昼時のファーストフード店、彼はポテトをかじりながら言った。
「いきなり何の話ですか」
隣に居た後輩が彼に尋ねる。
「色んなもの見て思うんだよ。ちやほやされたり、騒がれるとさあ、未来が危ういんじゃねえかなって」
「例えば」
僕はジンジャーエールをストローで吸う。
「あー、ビートルズとかな」彼は手についた塩を紙ナプキンで拭きながら言う。「結局あいつらの解散って、有名になり過ぎたからって感じがするじゃん」
「あいつらって、知り合いみたいに言わないで下さいよビートルズを」
後輩が苦笑しつつ突っ込むのに僕は頷いた。
「それに、別に解散した理由も色々だろ。別に全部が全部有名になったからで片付けられるようなもんでもないし」
「それでも、だよ。世界中があいつらの声を聞いてたんだぜ。世界一有名なロックバンドって聞かれたら、誰でもビートルズを答える。だからこそ、あいつらは上手くいかなかった。俺はそう思う」
僕はまあそうかもしれないけど、と呟きながら、
「そういう例なら、ニルヴァーナのカート・コバーンじゃないのか」
と突っ込む。彼はあー、と間延びした声を出してから僕のジンジャーエールを飲んだ。
「俺ニルヴァーナ聞いた事ないもん」
「聞いてくださいよー、超かっこいいから」
後輩がけたけた笑うので彼はふうんと、肩肘をつきながら言う。
「パンク好きじゃねえもん」
「食わず嫌いはよくないぞ」
僕が言うと、彼はふん、とそっぽを向いた。
「美味いものだけ食っちゃ悪いか」
テリヤキバーガーにかじりつきながら、彼は言う。
「で、何。なんで有名になるのが美味くない話とかいうふうになったわけ」
「いやまあ、なんつーの。どうせやるなら、じっくりやりたいかなとか」
「なにを」
「ですか」
僕と後輩が尋ねると、彼はマヨネーズを口元につけたまま、ふふふと笑った。
「バンド」
僕と後輩は顔を見合わせ、肩をすくめる。
「俺らじゃインディーズすら不可能ですよ先輩」
「用意するなら、もう少し美味い話にしようぜ」
僕の言葉にまたそっぽを向きながら、彼はポテトをかじった。


10/02/07  もこ
 

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「ざまあみろ」



「ざまあみろ」
笑うように言う。
「自分勝手だから、相手を考えないから、こうなるんだ。裏切られて、傷つけられて、一人になるんだ」
自業自得だ、と嘲る。
「ざまあみろ」
部屋の中、自分一人が馬鹿みたいに笑っていて、滑稽で、また笑えた。
「畜生」
笑いながら、崩れ落ちる。
「ざまあみろ」
笑いながら、涙が出る。
「あはは、はは、ふ、う、え、う、あ」
悔しくて、悔しくて。
「ふあ、う、ああああ」
ざまあみろ、自分。


10/02/06 もこ

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「はないちもんめ」



ばきり。
音がなる。目の前の鉛筆が折れている。
「ああ」
間延びした声を洩らしながら、折れた先を見つめる。
尖ったそれは自分そっくりでなんだか間抜けだ。
「あはは」
誰にも必要とされていないことを実感すればするほど、気分が悪くなる。
一体何のために自分が生きているのか。考えれば考えるほど、意味がなくなっていくようで、笑いが込み上げる。
「あはは」
指先に痛みが走る。折れた先を指で突く。痛い。生きていることを実感する。
このまま力を込めればきっと赤い血が出る。それもきっと自分が生きている証拠だ。
「あはは」
生きるのが辛い。毎日孤独に苛まれるのが辛い。
永遠に名前を呼ばれることのない不安が、広がっていく。
「居ないのと一緒なら、生きている意味なんてあるの?」
その有無は私には分からない。
折れた鉛筆を触る手だけが、ぼんやりと現実感を伝えてくる。
「ああ」
握った鉛筆に力を込める。
音は鳴らない。
深い痛みと、赤色だけが、机に広がる。
「あの子が欲しい」


10/02/06
 

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「縁」


「この写真」
彼女は額縁の中をぼうっと眺めながら呟く。
時間帯とギャラリー規模の所為か、他に客はおらず受付にぼんやりと座っていた僕は振り返る。あまり大きくないギャラリー、立ち並ぶ写真の一枚の前に彼女は立っていた。
「あ、それ」僕は少し躊躇いがちに言う。「それ、僕の写真なんです」
彼女が振り返る。整った顔立ちと、少しパーマがかったショートカットが似合う可愛らしい女の子だった。
「あなたが?」
彼女は少し驚いたように僕を見つめた。
それから彼女はすっと視線を額縁へと戻し、その下に表記されているタイトルと撮影者名(当然僕の名前なのだけど)を見る。
「あなたの、他の写真とかって、ある?」
「今、このギャラリーには、ないです。僕の写真はそれ一枚だけ」
「そう」
彼女は頷き、じっと写真を見つめる。
「気に入ってもらえた?」
「とても」
彼女は頷き、柔らかく微笑んだ。
「あなたの写真を、もっと見たいときは、どうすればいいかな」
「え、あ」
僕は突然の申し出に少し返答を迷う。
「そうだな、今はデータも現像したのもないから。今じゃなければいくらでも用意できるんだけど」
「なら、連絡先、教えればいい?」
彼女はそう言ってすっと携帯を取り出す。
「へ?」
「いつでもいいから、写真を用意して、それから私が会いに行く。それは駄目?」
「いえ、でも、なんでそこまで?」
「この写真、気に入ったから、じゃあ理由にならない?」
彼女が首を傾けながら尋ねる。
「そんなことは、ないですけど。全然見ず知らずなのに」
正直少し僕は彼女の積極性に不安を覚えていた。美人だから余計とだろうか、何か裏があるような気がしてならないのだ。
彼女はうーんと悩むように口元に手を当て、肩をすくめる。
「縁を感じたの」
「縁?」
「そ。あなたとのね。偶然入った写真展で、気に入る写真があって、それを撮った人が受付だった」
彼女は嬉しそうに語る。
「些細かも知れないけれど、そういうのって私、縁を感じるの。バカっぽく思えるかもしれないけど、そういう偶然を大切にするって、いいことなんじゃないかなって」
別に何かたくらんでるとかじゃないのよ、と僕の心の内を読むように彼女は苦笑する。
「そういうの、嫌い?」
「嫌いじゃない、けど」
よかったと彼女は微笑む。
「別にあなたの連絡先はくれなくてもいいの。別に遅くなっても構わないし、怪しいと思うなら連絡してくれなくてもいいから。あなたが私と同じように縁を感じてくれたら、連絡して?」
「そこまで言うなら」
僕は頷き、彼女のアドレスと電話番号を赤外線で受け取り登録する。
「前向きに、検討します」
僕が呟くように言うと、彼女は嬉しそうに笑った。
その笑顔が普通に可愛くて、僕は少し彼女に見惚れる。
それからぼんやりと、どうせ縁があるなら彼女をモデルにしたいと、考えた。


10/02/05  もこ
 

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「いつかの翡翠」


「僕、自分のいいところがわかんないんだよ」
学校の屋上は夏の日がダイレクトに差してくる割に、風で割と涼しい。
「みんな、僕を良い奴だと言ってくれる。でも、自分で自分のいいところが分からないから、みんなの言う事が僕には理解できない」
彼は別段興味もなさそうに街を見下ろしながら、ふうんと相槌だけを打つ。
「僕は別に、何もしていない。ただ普通に会話して、受け流したり笑ったり、それくらい。普通にしてるだけなのに」
みんなは何故、他の誰かを虐げるのだろう。僕も彼らと同じなのに。
「僕がみんなにとって必要な存在だなんて思えないから、余計と分からないのかも。みんなが言う好き嫌いとか、うざいとかそういうのも含めて」彼はあくびをしながら空中に向けてくるくると指を回している。
「それになんだか、自分が他人を騙しているような気分で、なんだか申し訳ないんだ」
僕がそう言うと、彼は僕の方をふっと見て笑った。
「おいおい、何だよ申し訳ないって」
「だって、僕は良い奴でもなんでもないのに。そういう風に思われてるのずるいんじゃないかって」
「変な奴」
彼はけたけたと笑って、また街を見下ろす。
「別にいいじゃん。そういう謙虚なとこが、さ、多分お前が良い奴って呼ばれる理由だろう」
「そうかな」
「さあ? 俺の想像」
彼はさっぱりと言い切る。僕は彼のそういう、何かを誤摩化したりしない正直さがとても好きだ。
「ま、俺もお前の良いとこなんかわかんねえけどさあ」
「うん」
「俺は自分のいいとこはわかるぞ」
彼はそう言って真っ直ぐに立つ。
「なに?」
僕が尋ねると、彼はいつものにやりと笑って、手を挙げる。風が、強く吹く。
「飛べるとこだ」
彼の体が宙に浮く。彼のネクタイが風に揺れる。
僕はそれを見つめながら、一つだけため息を吐いた。
「うらやましいよ」

10/02/03  もこ
 

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